「女として見られてないって事はないかなぁ」

「勘右衛門は性別が女なら大体いけるって言ってたぞ」

「そ、そんな名言…」


そんな会話が聞こえて俺は足を止めた。
いつまで経っても降りてこない兵助を探して校舎に戻ってくれば、あの二人…何の話をしてるんだか。
何となく俺の話をしている二人の会話が気になって教室に入らずに居ると、兵助は大木さんの頭を力加減無く叩いた。ああ、痛そうにしてるなぁ…。


「なら、俺で試してみるか?」





しかし、兵助にしては珍しいなぁ。兵助がああやって女の子とまともに話しているのなんて初めて見たかもしれない。立ち上がったまま無言で見つめ合う二人を見ながらそう思う。一体いつまでああしてるんだか。くぁ、とあくびを噛み殺して涙の滲む目で見遣る。あ、大木さんが動いた。涙目で見つめちゃってまぁ………あ。


ぐいっ


兵助が大木さんを抱き締めた。大木さんは突然の事に呆然としてる。

……何だ、それ。


「あ、悪い。何かこうした方がいい気がして…」

「そ、そっか…」


兵助も、何なんだよ。
何だか非常におもしろくない。俺は足早に教室を離れると兵助を放って学校を出た。まぁ別に、一緒に帰る約束をしていたわけでもないし何の問題もないんだが。

こんなのは前にもあった。
俺は大木さんをからかって遊ぶのは面白かったけど、暫くそうしていたら大木さんの方から話しかけてくるようになって、何とも言い難い感情だったけど、飼い犬に手を噛まれるって言うか…おもちゃが意思を持って俺に向かってくるなんて、正直面倒臭い。
笑顔で拒否してやればそれを理解したみたいで大人しくなったけど、もう今までの様な反応はしないだろうし、彼女で遊ぶのはやめだなぁとぼんやり思っていた。

すると次の日から何を思ったのか大木さんは兵助に朝の挨拶をしてくるではないか。俺の事は一切見ずに、兵助をどぎまぎと見つめながら。兵助も兵助で何事も無い様な顔で挨拶を返すし。いやいや、君達昨日まで一言も喋ってなかったろ?二人を見比べて不思議に思い何度目かの朝、俺から声を掛けると一瞬だけ瞳を輝かせた大木さんは気を取り直すように無感情で俺に言葉を返した。

『あ、尾浜君。おはよう』

………。何か、気に食わない…。
俺と話す時はいつだって緊張してて、からかえば顔を赤くして泣きそうになる。それが大木さんだったのに。ああ、今ので分かったよ?どうせ兵助が入れ知恵したんだろ。それで俺と接触するのに兵助に挨拶をするって言う事になったんだろうけど…気に食わない。大木さんが好きなのは俺なのに。どうして他の奴にそういう顔を見せるかなぁ…。






次の日も何もなかったみたいに昼休憩に顔を出した大木さんは、特に喋りもしない俺の事を気にするでもなく漫画を読み始めた。
普通、こんだけ機嫌悪そうにしてたら気付かないかなぁ…余計にイライラとしていればトイレに行ってくるねと言葉を残して出て行った。


「……はあ」


ぐてっとソファの背もたれに頭を乗せて天井を見る。何で俺が気疲れしなきゃなんないかな…本当気に食わない。


「あっ、いたいたー!勘ちゃんなーにしてるの?」


突然ガラッと勢いよく扉が開いて大きな声が部屋に響いた。ちらりと見れば…ああ、こないだちょっと遊んだ子…。二人でカラオケに行きたいって言うから行って、別の意味でも遊ぼうと誘われたからまぁそう言うなら喰ってしまおうかと思って…ハチからファミレス集合かかって止めたんだけど。


「ねぇ、また今度一緒に遊ぼうよ。もちろん二人でだよ!」

「うーん…そうだなぁ」


そう言えば最近女の子と遊んでなかったし、遊んだら気分転換になるかなぁ。


「…おーい、何してんのー?」

「えー?だってこの前は出来なかったから…いいでしょ?」


ニコニコと笑って近寄ってきたと思ったら俺の膝に腰かけて顔を包み込んだ。うーん、やっぱり女の子は柔らかくて気持ちいいなあ。この子可愛いしなー、据え膳だよなぁ。だけどこんな事してたら…大木さんが一瞬だけ頭を過った。けど、まぁいいか。別に関係ないし。大木さんだって兵助と抱き合ってたわけだし…。大人しく近付いてくる唇を受ければ、静かにカラリと扉が開く音がした。




「………」

「…ねぇ、勘ちゃんがその気なら…私ここでしてもいーんだけどな?」

「……はあ。悪いけど、出てって」

「えー!?何で!」


…何だ、この後味の悪さは……。

目撃して逃げていったであろう大木さんを想像する。泣いてるかな…軽い仕返しのつもりでやったけど、ちっともスッキリしない。むしろ余計にモヤモヤが増えた。俺はただ大木さんも俺と同じ気持ちを味わえばいいと思って…いや何言ってるんだ俺は。ていうかうるさいなぁ。今は一人になりたいって言うのに…。


「ねぇ勘ちゃ…」

「うるさいなぁ。俺、一回言ってわかんない子嫌いだよ」


へらりと笑ってそう言うと、ビクリと震えて涙を滲ませ、勢いよく出て行ってしまった。そうだよ。皆、俺に合わせていればいーの。遊んであげる時はちゃんと遊んであげるんだから。だけどそれでも頭に浮かぶのは鞄を置いたまま逃げたあの子で…。

……やっぱり気に食わない。




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