今日も旧生徒会室で尾浜君とのんびりとした昼休みを過ごしていた。
私気付いたんだけど、都市伝説学校にある尾浜君専用の部屋ってあそこの事ではないのかなぁ。トイレから戻りながらぼんやりと考える。て事は尾浜君は…生ける都市伝説……。


「……から…しょ…」


「ん…?」


旧生徒会室に近付くに連れて、話し声が聞こえてきた。あれ?さっきまで私と尾浜君だけだったけど…もしかして久々知君かなぁ。特に深くは考えずに、すりガラスの扉をスライドさせて私は見えた室内に手を止めた。


尾浜君、と…女の子が、キス、してる…。


女の子が尾浜君の膝に座って、顔を両手で包んでいた。あの子は誰だろう。わからない。と、とにかく一旦去ろう、まだ気付かれてないし。
音を立てないように足をそろそろと動かして、暫く距離を取ってからパタパタともたつく足で走った。扉、閉められなかった。誰かに見られたって気付くかな。あの子は一体誰なんだろう。もしかして…彼女、が、出来たのかな…。


びたんっ


考えながら走っていたら足がからまってこけてしまった。い、痛い…膝小僧が熱い。摩擦で擦れちゃったのかな…腕を突っ張って体を起こすと、微かに震えていた。足も、震えてるみたいだ…。


「あ…鞄、忘れてきちゃった…」


次の授業のノート、入れっぱなしだ…先週やった所指されるからあれがないと困るし…昼休憩ギリギリの時間なら、取りに行っても大丈夫かなぁ…。


「……痛いよう…」


五分だけ。五分だけこうしていよう。それから鞄を取りに行こう。壁に背中を付けた。ちょっとだけ、涙を拭くだけだから。ぎゅうと膝を抱えて丸くなった。







さっき、予鈴鳴ったし尾浜君はいつも10分前には教室に戻るから大丈夫だと思う。だけど一応粘って今は授業開始二分前。もう大丈夫だろう。走れば教室まで間に合う。よし。


「っ、!!おはまく、ん…まだ居たんだ」

「うん」


扉を開けて驚いた。尾浜君が、まだ居た。ソファで何にもせずにぼーっとしてるみたいだけど…さっきの女の子はどうしたんだろ…。


「もう授業始まっちゃうよ」

「うん」

「…私、先に行くね」


「大木さん」


鞄を持って尾浜君に話しかけたけど上の空で、一人で部屋を出ようとしたら尾浜君に呼び止められた。


「さっき、見てたでしょ」

「!すい、ません…」

「謝ってほしい訳じゃないけど…まぁいいや」


尾浜君、私が戻って来てたの気付いてたんだ…。
尾浜君は相変わらず動く気配がなくて、天井を見つめたまま。授業がもう始まっちゃう。でも、どうせ今から走ったって遅刻だし…このままだと気になってしょうがない。……よし、聞いてみよう…。
私は鞄をぎゅっと抱き締めて廊下から中に戻った。扉をゆっくり締めると、尾浜君はちらりとこっちを見た。


「あ、の…聞いてもいい?さっきの女の子は…彼女、ですか?」

「…違うよ」

「そうなんだ…」


それを聞いてほっとした自分が居た。彼女じゃないなら、まだ頑張れる、から…。だけど尾浜君は、そんな私を見てへらり、と笑った。


「て、言うかさぁ。大木さんに関係ないよね。俺が誰とキスしようと付き合おうと」

「そ、そうかもしれないけど…気になる、よ。私は、尾浜君が好き…だから…」


思わず顔が熱くなる。今は赤くなってるような雰囲気じゃないのに…。尾浜君を見ると、下を向いて肩を震わせていて…


「はは…」

「…?」

「本当に俺が好きなの?昨日は兵助と抱き合ってたのにさぁ」

「…!見て、た、の…」


どこから見られてたんだろう。変な誤解を与えてしまった、どうしよう。青ざめた私を見て尾浜君は顔を歪めて笑った。


「兵助はかっこいいもんね。大木さん誰でも良かったの?」

「ち、違うよ!私は本当に尾浜君が好きで…」

「でも嫌がらずに抱き締められてたじゃん。俺が好きなら、突き飛ばすなりすればいいのに」


尾浜君の言うことは、正しい…。私は尾浜君の事が好きで、それを相談して結果ああなっちゃったけど…久々知君は協力してくれただけで悪くはない。私はあの時、嫌がる事も出来たのにそれをしなかったんだ…。
尾浜君が少しだけ目を見開いて、驚いてるのがわかった。慌てて俯いてじわじわと痛くなる目をこする。駄目、ここで泣いたら尾浜君にうざがられる…。ここを出よう、泣き止んだら、また話に来よう…そう思って扉を開けようとしたら、後ろからにゅ、と腕が左右から伸びてきて、私はそのまま抱き締められた。


「…?お、はま、くん」

「……あー、もう本当…」

「あの、……!」


それからぐるりと方向転換させられて、向き合うようにもう一度ぎゅうと抱き締められた。


「……ムカつく」

「あ、のその…」

「大木さんが好きなのは俺なんでしょ…だったら、触るのは俺だけでいーじゃん。それじゃあ駄目なの?」

「だ、め…!じゃない!」


尾浜君の言葉に驚いて、私はもがいた。
ちゃんと信じてもらいたくて、尾浜君の胸を押して顔を見上げると目を見て叫んだ。心臓がバックバクしてて、そわそわ落ち着かなくて…。

だって、それって、それってまるで…嫉妬、してるみたいで…。

尾浜君は私の勢いに目をきょとんとさせて、一度瞬きをして優しく笑ってくれた。それからすぐへらり、といつもの笑顔に戻る。くるくる、尾浜君の表情はよく変わるなぁ…。


「…はは、必死だね。…うりゃ、」

「いひゃい、おひゃまひゅん」


うに、と頬っぺたをつままれて横に伸ばされる。ぺしぺしと腕を叩いて抗議すると手を離してくれた。い、痛かった…赤くなってそう…。頬を両手で擦るとその上から尾浜君の手が重ねられる。そのままじっと見つめられて…


「…あき」

「!は、はひ…」


また、名前で呼んでくれた…。もしかして、また少女漫画ごっこかなぁ…?ドキドキしながらじっと尾浜君を見つめ返していたらだんだん顔が近付いてきて…あれ、これ、少女漫画ごっこじゃ、ない…?この、まま、だと…本当に、キ……!
と思っていたら尾浜君は突然ニコォっと笑って


「悪い子にはお仕置きだっ」

「えっあきゃう!」


かぷっ、と。
鼻の頭に噛みつかれた。


驚いて尻餅をついた私を見てニコニコとしゃがみこんだ尾浜君は、自分の鼻をちょんちょんと指差しながら言う。


「ここ、絆創膏貼った方がいいんじゃない?俺がおまじないしてあげよー」

「い、いや、いい、いいよ…」




結局おまじない、と言って近寄った尾浜君にもう一度噛まれてしまった。




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