雲一つない青い空が綺麗な昼下がりに木陰で寝転ぶのはセナ。青い空に似つかわしくない深い溜め息をこぼした。
最近ではめっきり三人で顔を合わせる事も無くなってしまった。というよりあんまり近付いていない。心臓が壊れそうで。出来れば心臓を取り出してポイッと捨ててしまいたい。セナはそんな事を考えていた。
「セナー!」
「あ、竹谷…」
そうとも考えていれば向こうから八左ヱ門が大きく手を振りながらやって来た。にこにこと笑う八左ヱ門にセナの表情も和らぐ。
「何してんだよこんな所で。昼寝か?」
「うん。いー天気だし、木陰が気もちくて」
「あー、だな!」
八左ヱ門も横にゴロリと寝転がったので、セナも再び横になり空を見た。空は青いだけで他には何にもない。白い球体以外。
「…ん?球体?あっ!!」
「ィダッ!!?!」
ぼんやりと近付くそれを眺めて、八左ヱ門の顔面に墜落した所でそれがバレーボールだと気付いた。コロコロコロとボールは転がって行き、体育委員の二年生が拾って持っていってしまった。
「た、竹谷!大丈夫!?」
「あ、ああ…ボールは大丈夫なんだけど、何か目に入っちまって…」
「た、大変!見せて!こすったらダメだよ!」
セナは起き上がり顔を俯けて目を擦る八左ヱ門の顔を両手で持ち上げた。うっすらと開いた瞳は充血して潤んでいる。
「…あ、逆まつげだよ……取れた!」
「んー……お、本当だ、痛くない」
「よかったー」
ほっとして顔から手を放すと、今度は反対に八左ヱ門がセナの顔に触れた。
「ありがとな」
「う、うん、いいの。あの、それより…」
「ん?」
「ち、近いし…」
思えばよく見るために物凄く至近距離まで顔を近付けていた。体はまだ離れていないから、さっき程ではないけど近くてドキドキする。八左ヱ門はそんな様子を見てニカリと笑った。
「お、やっと俺にもドキドキしてる?」
「や、やっとって…」
「いーんだよ、本当なんだから」
「う、竹谷、手ぇ離して…竹谷ってば!」
「んー、なぁ」
頬を包む手は未だ離れず、八左ヱ門は覗き込むように顔を近付けた。上目遣いって、男でも威力ある…セナは顔を赤らめながらそう思った。
「なに…」
「名前で呼んでくれよ」
「な、名前…」
「おう。どう呼んでもいいから」
ドキドキと心臓がうるさい。名前で呼んでみたいとはずっと思っていた。何て言えばいいかわからず聞けなくてそうしてる内に今さら変えるのは恥ずかしいと思っていたのだが。
「は、ハチ…」
「………あー、やべぇ」
緊張で涙が滲む。どぎまぎしながら名前を呼べば八左ヱ門は嬉しそうに笑って、耳元に顔を寄せた。
「セナ、すげー可愛い…その顔は反則」
戻った八左ヱ門の耳が赤くて少しだけ嬉しくなった。
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