「お前ら…いい加減にしろーー!!!!」


その叫び声に兵助と#あき#は停止した。

今日もいつもの如く小競り合いを始めた二人は、飼育小屋の鍵を蹴飛ばし手始めに毒蛇を逃がした。毒蛇は八左ヱ門と孫兵が地面に這いつくばって何とか見付けた。

その後長屋でじゃんけんでケリを着けると言い出して、たまたま毒虫を長屋で保管していた虎若が虫かごを持ち八左ヱ門の元を訪れ、勢いよく振りかぶった腕が当たり大脱走した。素早く部屋を締め切り八左ヱ門が一人で捕獲した。

そして最後に食堂で、八左ヱ門を挟んで両隣で言い合いが起こる。八左ヱ門は苦笑しながらも食事を取っていたが、セナが立ち上がった事でそれは始まる。


「飯くらい静かに食べないか、ハチが気が散るだろ」

「イーーッ!!久々知が一々嫌味な事を言うからこっちも腹立つんでしょ!!!それにあんたみたいに喋んない奴より楽しく会話しながらご飯食べた方がおいしいに決まってる!!ね!竹谷!」

「うぴゃあっ!?」


セナが立ち上がった後ろを、一年ろ組の下坂部平太が歩いていた。その声に驚き振り返ると、目に涙を溜めてお盆を持つ平太と目が合う。


「あ、ご、ごめんね、驚かせて…ご飯溢さなかった?」

「い、いえ…大丈夫です…」

「すまない、平太。こいつが動くから」

「元はと言えば久々知が焚き付けるからでしょーーー!??」


「お前ら…いい加減にしろーー!!!!」


堂々巡りのやり取りが始まり、八左ヱ門は机を叩き立ち上がった。ついに堪忍袋の尾が切れてしまった。というよりは、今まで二人に怒りを感じた事はほとんど無かったのだ。自分に降りかかる被害なら仕方ないで済ませられたのだがそれが他所に、しかも後輩にとなると話は別だ。
八左ヱ門は平太を別のテーブルまで誘導すると、自分のお盆を持ちカウンターへ返すと食堂を出ていった。セナと兵助は慌てて後を追いかけると、ズンズンと肩を怒らせて進む八左ヱ門に戸惑いながら声をかける。


「た、竹谷…」

「俺はお前達のどっちが上だとかない!二人とも好きだ!!けどそれで喧嘩するなら俺はもうお前らなんか嫌いだ!」

「ど、どこ行くの」

「うるさい着いてくるな!」

「ハチ…!」

「うるさい着いてくるな」


そう言われてしまっては追いかける事も出来ず。二人は見えなくなるまで八左ヱ門の後ろ姿を見つめた。


「俺の方がトーン低い…」

「いや私の方が語尾キツかった…」


セナと兵助は思わず顔を見合わせた。顔面蒼白で困り顔。鏡でも見てるのかと思った。


「どうしよう…き、嫌われちゃったよぉ…!久々知お前のせーだからなー!」

「何でだ。お前が…いや、こんな言い合いしていたらもっと嫌われるぞ」

「そ、そうか…」


緊急時、人は結束する。無意識に手を握り合い近距離でひそひそと話し合う姿はいつもの二人からは想像できない。


「そもそも、お前何でいつも俺に言い掛かってくるんだ」

「そ、それはそっちもでしょ!」

「俺はお前が喧嘩売るから買ってるだけだ


「え?そう…だっけ…?」


確かに言われてみれば、いつも突っ掛かって行ったのは自分からの様な…いやいや、やっぱり久々知から嫌味を言ってきた事だってある。もしかしてあれ素で言ってるのか?
セナは更に顔を近付けて兵助を見上げた。


「私は!…その…久々知がそこらの女の子より綺麗だから竹谷が取られちゃうんじゃないかって…」

「俺は男だぞ…」

「そんなの関係ないよ!だって久々知は綺麗だもん!!」


いつもいつもセナが嫌味のように嫌味ではない事を言っていたのはどうやら本気だったようだ。兵助はそれを理解して、至近距離で真っ直ぐに自分を見つめてくるセナを初めて見てドギマギと視線をさ迷わせた。ハチは何故こんな風に見つめられて平然としているんだ。正気じゃない。


「…そんな事言ったら、俺だって…」

「?」

「お前は真っ直ぐにハチだけを見てて、気持ちだって思ったまま伝えるの、は凄い、と思ってて…ハチがセナを見るようになってしまったら、俺の居る場所が無くなるのは嫌だから…」

「う、嘘だぁ…だっていっつも猿とか、」

「嘘じゃない。それにお前は忍たまからも人気があるし、俺だってくのたまの中では一番可愛いと…」

「えっ!?」

「あ、…いや、その…」

「わ、私だって久々知が忍たまの中では一番かっこいいと思ってる、よ…」


暫く二人は見つめ合う。お互いがお互いの事を実は悪く思っていなかった事実。両者は初めて見つめ合う相手を異性として認識した。
その時、こちらに駆けてくる足音が聞こえ、二人は慌てて手を離し距離を取った。そして現れた人物に二人は驚く。


「おーい甘いもん持ってきたぞ!」

「た、竹谷!」

「ハチ…どうして」


八左ヱ門が団子の包みをぶら下げて笑顔で戻ってきたのだ。戸惑う二人に八左ヱ門は後ろ手で頭を掻くと照れ臭そうに言った。


「ん?いやー、やっぱお前ら放っとけないし、ほら、イライラすんのは糖分足りないからだって言うだろ?これ食べて仲直り!兵助、セナ、悪かった!…な?」


両手を合わせて頭を勢い良く下げた八左ヱ門は、困った様に笑いながら顔を上げた。それを見たセナは真っ先に八左ヱ門に抱き付いた。


「た、たけやぁ…!ごめんなさぁい…!」

「ハチ…ごめん」

「いーんだよ!俺は。まぁもうちょっと二人が仲良くなってくれたら嬉しいけどな!」


団子食べような!平太にも一本やろう。そう言って食堂へと向かう八左ヱ門に着いていく二人が、暫く顔を見合わせ顔を赤らめて居た事に八左ヱ門は気付かない。




back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -