「ああ〜ら!!これはこれは頭脳明晰成績優秀文武両道の久々知さんじゃない」
「それ本気で悪口として言ってるのか。逆上猿」
「うきーー!!!」
昼休みになり食堂へ向かう渡り廊下で兵助とセナは出会った。進路が反対方向なのでセナは食事を取った後のようだ。だがしかし地団駄を踏んだセナはくるりと向きを変えると来た道を戻る。兵助は不思議そうにその背中を追いかけた。
「おい、何で戻る」
「うるさい。久々知が来るって事は、竹谷も来るんでしょ。席を取っとくの!」
食堂に入ると空いている席にセナは腰掛けた。兵助はランチをおばちゃんから受け取るとセナの目の前に座った。
「…ちょっと、真正面なんて止めてよ…」
「仕方ないだろう、ここしか空いてないんだから」
いただきます、と手を合わせて食事を始めた兵助の定食にはやはり豆腐が入っている。
「久々知って本当に豆腐が好きだね」
「美味くて体に良いんだ。嫌いになる理由がない」
「あ、そ」
「お前も豆腐食べろ。肌にいいぞ」
「豆腐って味気ない…冷奴飽きた…」
「お前は米を食い飽きるか?」
「それはないけど…」
「なら豆腐も食べろ」
「全然納得できないんですけど」
兵助は喋りながらもぱくぱくと食事を口に運ぶ。食べ方も綺麗な奴。セナは自分の食事と比べてみても勝てる気がしないと思った。男の癖に綺麗で賢くて、何より八左ヱ門と仲が良い。セナはそんな兵助が羨ましくて、自分ではきっと知り得ない男の友情なんかもきっとあって…一日中一緒に居られるし…要は妬んでいた。八左ヱ門の事さえなければ、顔だけで言えば八左ヱ門よりもタイプだし、良い奴位には思えていたかもしれない。
「チッ、久々知め…」
「本人目の前にしてよく言うな…ご馳走さまでした」
「…あれ?竹谷待たないの?」
手を合わせ立ち上がった兵助を、セナは不思議そうに見つめた。食器を返却して体を出口に向けたまま、兵助は首を回してセナを見るとにこりと微笑む。
「誰も一緒に食べると言ってない。八左ヱ門ならもう飯は済ませて長屋で虫かごの補修をしていたぞ。俺は手伝いに行くから。じゃ」
一人取り残された食堂で、セナが言葉の意味を理解するまでに一年の大喰らいが食事を取り、済ませて出ていった。
「む、むきゃーーー!!!やっぱり何が無くとも久々知なんか嫌いだーーー!」
セナは怒りで涙を浮かべ、叫びながら長屋へと走った。
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