セナは草むらから顔を出すと、左右を確認して笑った。よし、今日は奴は居ない。


「竹谷ー!あそ…」


「ハチ、取ってきたぞ」

「おー!悪いなぁ」


目の前で声を掛けようとした相手、八左ヱ門にどこからか飛んで現れたのは久々知兵助。セナはギリ、と歯を軋ませて睨み付けた。


「…ああ、何だ。お前そんな所に居たのか。風景と同化するくらい違和感なくて気付かなかった」

「お、セナ」

「あ、ああ〜ら、これは男の癖に豆腐ばっか食べて女の子みたいな透明感のある肌した久々知君。そっちこそ気付かなかったわ」

「無理があるな、ハチ」

「ああ、と言うかそれ、悪口になってないからな」

「むきー!うるさい!」


セナはようやく草むらから出ると兵助をビッと指差して仁王立ちした。


「久々知!女が男の元へ通う理由なんて一つよ!そんな事もわからないようなら即刻馬に蹴られて死ね」

「わかってる。わかってるから、こうして居るんだろう猿」

「キーー!!絶対許さない!!竹谷!」

「な、何だよ…」


今度は八左ヱ門に向き直り腰に手を当て、覗き込むように背をかがめた。


「竹谷が一度ビシッと言えば丸く収まるんだから、この阿呆に言ってよ!」

「何をだ?」

「だからー、俺とセナの時間を他の奴に邪魔されるなんて気が気じゃねぇぜ!みたいな」

「阿呆はお前だ。ハチがそんな事言うか」

「お前は黙ってろー!」


野次を飛ばす兵助をギロッと睨み付け八左ヱ門を再び見れば、セナと兵助のやり取りを見てポカンとした顔をニッと輝かせた。


「俺はお前らと遊ぶの楽しいぞ!お前らもそーだろ?」

「いや」

「全然」

「またー照れんな照れんな」

「いや」

「全然」




セナと兵助。
竹谷八左ヱ門の事が大好きでいつも取り合っている。



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