「セナ」

「く、久々知、止まれ!」


近寄る兵助に手をかざし停止を叫ぶと、セナは一歩下がった。


「…何、用事?」

「ああ」

「何?」

「どうして近付いたらいけないんだ。改善を要求する」


兵助が一歩踏み出せばセナが一歩下がる。いつもの事なので兵助は今日も近寄るのを諦めた。


「だから言ってるじゃない!久々知が近くに来ると心臓が変なの!痛いの!速いの!苦しいの!!」

「お前…よく大声で叫ぶな…」


聞く方からすればそれは愛の告白なのだが。兵助は赤くなった顔を誤魔化すようにこほんと咳を一つした。


「セナ。お前がハチに抱き付こうとして避けられたらどうする」

「………泣く」

「そうだ。俺の気持ちも考えろ」

「そっか、ごめん…」


自分に置き換えてみれば何と非道な事をしていたのだろうか。自分が兵助の立場だったら絶対にめげている。セナはしょぼんだ。それを見て兵助は背中で拳をグッと握り締めた。何と扱い易い奴だ。その辺も可愛い。もちろん拒否されて悲しいのも本当だ。

すっと近寄った兵助にセナは身構えそうになったが、何とか抑えて直立した。


「そんなに固くなるなよ…」

「む、無理。心臓爆発しそうなの」


そんな事を涙目で言われては抑えられているものも抑えられなくなる。兵助は勢い良くセナを引き寄せ抱き締めた。


「ちょ、ちょっ…!…!!」

「いいから、聞け…」

「…?」


兵助の胸元に押さえ付けられもがくセナは、ある事に気付いた。兵助の心臓が自分の物と同じようにドクドクと叩いている。壊れてしまいそう。


「俺だってお前に近付けばこうなる。だけど好きだから近付きたいと思う。触れたいと思う」

「…い、痛くない?」


セナは胸がぎゅうっと握られるように痛くなる。それが恐くて兵助にはあまり近付きたくない。兵助の心臓に手を当てて見上げれば、兵助は優しく微笑んだ。


「痛いよ。けど、その痛みもひっくるめてお前が好きだから」

「そ、そう…」

「ああ。だから、もう一回抱き締めていいか?」

「………嫌」

「…そうか」


嫌だと言われれば仕方がない。兵助は体を離そうとしたがセナが制服を掴んでいて離せなかった。眉を寄せ苦しそうな顔で見上げられて鼓動が速くなる。



「とは、言えないよ…」


「…参った」


兵助は口許を覆い、反対の手でセナを抱き寄せた。




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