「よし、大木!今日は飲みに行くから定時で上がれよ!」


お弁当箱を返された時にその言葉も添えられた。いや、添えるならもっといいもの下さい…弁当代とか…。


「いや、今日は明日から三連休なんで実家帰ろうかと思」

「6時になったらすぐ出れるようにしておけよ。あと私の上着と鞄持ってエントランスに降りておけ!」

「いやだから課長私予定があっ」

「大丈夫!奢りだから金の心配はするな!じゃあ私はこれから他社で打ち合わせあるから!滝夜叉丸行くぞ!」

「は、はいっ!」


「きっ、聞けよぉ…!!!」


私の叫び声は虚しく響いた。
…次屋、掌を合わせるのやめなさい!






そして、どうしていつもこうなんだ…。


七松課長は打ち合わせから戻ってくると次は社内で会議があるとかで荷物だけ置いてすぐ行ってしまった。終業時間の5分前になっても戻って来ない。課長の荷物も持ってエントランスに降りておけって言ってたし、まさか会議室から直帰するつもりなのでは…。

私は七松課長の言い付けを破った事はない。何故なら以前次屋が課長にやっておけと言われたコピーを後回しにして自分の仕事をしていて怒られている場面を見たからだ。いや、あれは七松課長笑顔だったんだけど、「三之助…私の言った事が聞こえてなかったのか?」て目が笑ってなかったし。完全に瞳孔開いちゃってたし。あんなに声の大きな課長の静かに響き渡る声は初めて聞いたし。あの時は後輩の時友君の背中で震えさせて頂いた。もう二度と見たくないと思った。次屋は床に土下座して謝っていた。

定時まで残り3分。


「滝先輩お先に失礼します!」

「あ、あぁ。大木、無事を祈るぞ…」

「痛み入ります…!」


私は猛スピードでパソコンの電源を落とし、机の上を片付け書類を定位置に収めると、七松課長の脱ぎっぱなし放りっぱなしにされた上着と鞄を引っ付かんでオフィスを駆けた。七松課長のすぐ出れるって、6時にエントランスに居ろって事ですか!?エレベーターも待っておれず、私は階段を転げ落ちる様に走り降りた。
エントランスに飛び出す。時間は6時ジャスト。わ、私の火事場の馬鹿力を見たかー!!!


「…って課長どころか誰も居ないし…」


やっぱり定時ジャストは賑わう筈のロビーも閑散としていた。なんだ、焦って損した…いやでも間に合わなかった時を考えればこのくらい…。一人で考え込んでいると背中を押されて強制的に歩かされた。


「?…あっ、中在家課長!えっ、あれっ??」


何故かシステム課の中在家課長が私を押して歩いている。何で!??しかも私面識ないんですけど!?いっつも七松課長の首根っこ掴んで歩いてるの遠目で見てるだけで!


「…飲み会はもう始まっている」

「え?あっ、そうなんですか?ま、まさか中在家課長が私を迎えに…!?」

「いや、私は仕事で残っていた」


中在家課長はポケットから携帯を出すと画面を見せてきた。覗き込めば七松課長からのメールで


『ロビーに私の鞄と上着持った奴忘れたから連れてきて』


な、なんだと…忘れられてたのか…。がくりと肩を落とすと肩を叩かれた。他所の課長に慰められちゃったよ…。





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