「七松課長はいっつもガッツリ肉食べてるから焼肉弁当とかならいいのかな…って待て私!!!」


叫んでハッと周りを見る。
奥様方が白い目で私を見てる。すいません、すいません!

断る隙も与えずにバンバン背中を叩いてさっさと行ってしまった課長に、ご飯食べたら断ろうと思っていたら食べ終わる前に他社との顔合わせがあるとかで居なくなってしまった。そして終業になっても帰ってこなかった…。

大体!何故!!自分の夕飯にも滅多に買わない牛肉を課長の弁当の為に買わなきゃなんないの!!まぁ自分の自尊心のためだけど!
もういっそ料理出来る系女子で皆を見直させる作戦で行こう。半分やけになり巨大なお弁当箱と牛肉をかごに突っ込んだ。






翌日、朝お弁当を作っている時も、電車に揺られている時も何も思わなかったのだが、会社に着いて私は目が覚めた。
どうやって…渡すんだよ…。
堂々と渡すつもりか?そんな事したら皆に見られてしまう。昼に呼び出す…?無理だ。昼飯前の運動にどっか走って行ってしまう。
そもそも、その場の思い付きで喋るような所がある。もし渡して忘れられてたらどうすんの?私、さすがに立ち直れない…!

そんな事を考えていたらあっという間に昼休憩になってしまった。とにかく課長に話しかけねば。出来れば課長から話し掛けてきて、説明口調でお弁当をかっさらって行って欲しい…。
ちらりと七松課長を見ると、今は滝先輩と話していた。滝先輩なら、自分の話が終わればすぐに去るだろう…よし、GOサイン!


「あの、七松かちょ」

「よし、滝夜叉丸!今日は私のおごりだ!!何でも好きなものを買っていいからなー!」

「いえ、ちょっと私まだデータ保存してないんで、ちょっ、ああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


七松課長は滝先輩の腕を掴んで暴走列車のようにオフィスを出ていった。私は上げかけた手を下ろせぬまま顔だけで周りを見る。他の課の人が何人か私を見てる。じゃなくて、


や、やっぱり忘れられてた…マジかよー…!


今日は皆出払っていて今は私一人だけだ。こんな事はたまにあるけど、よりによって今日じゃなくてもいいのに…。昼休憩始まってまだ五分と経ってない。他の課の人だってまだ誰もご飯なんて食べてない中自分の席に着席した。お弁当を開けたら卵焼きとウインナーとピーマンとじゃこのやつ。
寂しい…。この寂しさが鞄の中に入ってる巨大弁当の事を助長させて悲しくなってきた。
今誰かに優しくされたら確実に好きになるわこれ。性別の壁も乗り越えるわこれ…。


「なんか暗いなー」

「ひっ…!な、七松課長…」

「悩みか?悩む事は無駄じゃーないが、悩む時間はもったいないぞー」

「それ、矛盾してません?」


後ろからぬっと顔を出した七松課長にぎょっとした。いつまで経っても慣れない。
ていうか課長なんで居るんだ?お弁当買って戻ってくるには早いし滝先輩居ないし。


「ほら」

「え?お茶…」


課長は私の机にペットボトルのお茶を置いた。ほらって、くれるの?


「あの、何でお茶…」

「これは、お弁当作ってもらったお礼だ!」

「えっ…でも滝先輩とお弁当買いに行ってたんじゃ…」

「?滝夜叉丸もお茶を買うと言うから、エレベーターホールの自販機に一緒に行っただけだ」


成る程。そういう事だったのか…。七松課長、忘れてたわけじゃなかったんだ…。


「もしかして作ってきてないの?」


七松課長がガッカリ顔で私を見るから慌ててお弁当箱を取り出した。おお!と課長の瞳がきらめく。隣の椅子に座るとさっそく包みを開け始めた。ここで食べるのこの人?!


「やっぱり大木は凄いなー!いただきます!」

「ど、どうぞ…」


課長のお弁当にはごはんの上に焼肉と、おかずは卵焼き、ウインナー、ピーマンとじゃこのやつ、でもまだ埋んなくて困ったからササミを揚げて入れといた…あれ味付いてんのかな…。
少し緊張して見ていたら、七松課長は500mlのペットボトルを一気に飲み干してきらっきらの笑顔を向けた。


「美味いよ!大木はいい奥さんになれるな!」

「…ありがとうございます」


ヤバい。きらっきらすぎる。しかも無意識だけど落として持ち上げられたから直視してたら間違いなく惚れてしまう。
不自然にならないように目を逸らして自分の弁当をつついた。あー、絶対顔赤くなってるよ。


「大木」

「はい?」

「ありがとな!弁当箱返す」

「あぁ、はい」

「じゃあ、明日からもよろしくな!」

「あぁ、はい…ん?」

「私はひじきが食べたいなー。煮豆は嫌いだから、頼んだぞー」

「え…?」

「滝夜叉丸!食後の運動だ!屋上行くぞ!」

「えっ!?いや、私今ご飯買ってきたんで、ああぁあぁぁぁぁあああ!!!!」

「え…………!?」




明日から『も』ってどういうこと?





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