七松課長はドアノブから手を離し、その手を私の頬へ移動させた。指先で唇をなぞられてゾクリとする。七松課長の視線はじっと私の唇を見ていて、ああ、キスされる。そう思った時には顔を持ち上げられ唇が触れていた。
「っ、」
唇はすぐ離れてもう一度重なり、下唇を食むようにちゅ、と吸い付いてまた離れた。おでこをくっつけられて、近すぎる距離で課長と目が合う。
「ぅ、あ…な、七松、かちょ」
「…抱いていい?」
「!」
そ、そんな質問…。恥ずかしさで目が潤む。私は今日だけで何度顔を赤くするんだろう。思わずぎゅうと七松課長の服を握り締めると、それを肯定と取ったのか、七松課長の瞳が優しく細められた。再び口付けられると、七松課長の舌がそろりと私の唇を撫でた。思わずぴくりと身体が反応する。
ピンポーン
「………」
「………あの、んっ」
一度停止した七松課長は、無視する事にしたのか再び口付けてくる。私も少し気になったけど、いいか。と目の前に集中しようとしたんだけど
ピンポンピンポンピーンポーン!
…課長、口、笑ってますよ。目が恐いくらい、笑ってないですけどぉ…。
七松課長は私を軽々と抱き上げてドアから離すと、勢い良く扉を開いた。
「あダッ!?」
「大丈夫か、伊作」
「ぼ、僕の鼻めり込んだんじゃないかな…」
「…なんだー、皆か。どうした?」
七松課長越しに見えたのは仲良し役職組…。七松課長の怒り肩から力が抜けた。
「いやな、今日飲むと言っただろう?小平太は来なかったが。今まで飲んでいたんだ」
「で、次行こうとしたら伊作がな…」
「えっ僕のせいにするの?」
「お前発信だろうが…」
「?何だ?」
こんな夜中に外で話しては近所迷惑だよ…でもそこは常識をわきまえた大人で皆声を潜めて喋っていた。
「いやぁ、小平太、この間ロビーで大声で喋ってたからさぁ。今日大木と飲んでるんじゃないかなーって」
あ、いたいたー。と隙間から善法寺課長にヒラヒラ手を振られて、よくわからぬまま振り返した。声を潜めて喋っているから、ここまで何話してるのか聞こえないんだよなぁ…。
と思っているとゾロゾロと入ってきた。あー…インターホン鳴った時からなんとなく予想してたけど、やっぱり皆さんここで飲むんですね…。ちょっとだけ残念で肩を落とした。
「大木」
「?立花部長…お疲れ様です」
私の靴はベルト付で脱ぐのが遅いから、玄関の端に寄り皆が入っていくのを待った。最後に入ってきた立花部長に名前を呼ばれて会釈すると、ニィと笑まれてゾクッと背中に何かが走る。これは…悪寒だ…!
「悪いな、お楽しみの所」
「!?えっいやっ」
「いい、いい。」
一瞬で頭が真っ白になって必死に言い訳をしようとするも言葉が出てこない。立花部長は手の平を私に向けて見せた。
「玄関先で盛るとは若いな?あぁ、気付いているのは私と長次くらいだろう。他は酔っ払っているからな」
「!!!!!!」
「まぁ気にするな。こっちも邪魔をしたからおあいこだ」
「か、帰ります!!!!」
「まぁまぁ」
その後中在家課長と目があって、気まずそうに逸らされた。もう一度逃走を謀ったが、七松課長に捕まった。
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