七松課長に連れられて入った居酒屋を出る頃にはちょっと酔っぱらってしまった。
金曜日で、明日の心配しなくていいっていうのもあるし、七松課長のペースにつられたったいうのもあるし、緊張しすぎて飲んでしまったっていうのも、ある…ほとんど最後のが理由だな…。
しかし七松課長、よく食べるとは思っていたけど物凄い食べっぷりだった。店に入るやメニューを読んでいくと思ったら、それ全部注文だったからね。本当に凄い。何でそんなに食べても太らないんだろう?滝先輩とはよく来るらしく、店長さんは何も言わずに七松課長の注文に被せるように料理を出していた。慣れてるんですね…。


「わっ」

「大丈夫か?」

「あ、は、はい。すみません…」


考え事をしながら歩いていたからか、七松課長にぶつかってしまった。七松課長、ピンピンしてるし、一人で酔っぱらってるって何か恥ずかしい…。ばれないように気持ちキリッとして歩く。こんな事してる時点で酔ってるんだけど。時計を見れば終電まで一時間はある。何となく残念に思ってしまうのはもっと一緒に居たいから。
エレベーターに乗り扉が閉まると、初動の揺れに反応しきれずよろけてしまった。両手を前に突き出してバランスを取ろうとすると、その手を七松課長が掴む。


「…酔っ払ってる?」

「あ、あはは…みたい、ですね」


首を傾げて覗き込まれ、ボッと顔が赤くなる。指摘されちゃった…は、恥ずかしいー!笑って誤魔化そうとしたけど、ヘラヘラ笑いが余計に酔っ払ってる事を主張したような気がする。


「今日の大木は危なっかしいから、降りるまで掴まっとけ」


七松課長は腕を掴ませて笑った。その笑顔にドキリとして、私は少しだけ、お酒の力を借りた。
七松課長の腕にぎゅうと抱き付く。


「?大丈夫か?」

「…はい、ありがとうございました」


タイミング良く階に着いた事を知らせる音が鳴り、扉が開いたのと一緒に腕を離した。
気持ちを込めて抱き着いてみたけど、やっぱこんな事じゃ伝わらないよなぁ。気持ちって、言葉じゃないと伝えられないのかなぁ。それはとっても大変な事だ。

部屋にお邪魔すると、荷物を置いてあったソファまで行く。七松課長は洗面台に真っ直ぐ向かって洗濯機の扉を開けていた。もう行動がいちいち可愛いなぁ…!押さえきれない感情が顔に出てしまったので両手で覆った。顔がにやけるとも言う。


「大木!凄いなー!ふわふわしてる!いーにおいだー」

「ふっ…あははっ、そんな喜ばなくても」

「私には絶っ対に出来ない」



自信満々に言われてまた笑ってしまう。七松課長もにこにこしてて、そう言えば今日の帰りにもこんな笑顔を見たことを思い出す。ああ、じゃあ、今課長も、嬉しいのかな。
気付くと七松課長の視線が下にあって、それを辿るとスーツを入れた袋。


「あ、スーツ、本当にありがとうございました」

「んー?なぁ、帰るのか?」

「え?」



ドキドキドキと心臓が加速していく。
私と時計を見比べて、グッと握った拳を掲げた。


「もうちょっと飲み直すぞー!」

「えっ!?まだ飲むんですか!??」

「ああ!大木、お前もだ!」

「いや、お酒はもう…」

「まぁ付き合え」

「は、はい…お付き合いします」


課長も酔ってるのか?私の言葉聞いてくれない。いやいつも聞いてくれないけど。
私もちらりと時計を見る。終電まではまだ時間あるし、ここから駅までは歩いて10分だ。今日が終わるギリギリまで、一緒に居られる?そう思うと嬉しくなって口が上がってしまう。酔ってるんだし、今ぐらい素直に喜んでおこう。

…でも、もー私、お酒はいーですぅ…!!





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