「あ、そうだ。これ弁当代な!」
「あ…え、いやいやいや!そんなにいりません!!」
今日はスーツを取りに行く日である。と同時に給料日だった。
仕事が終わりクリーニング屋へと歩く途中で七松課長は思い出したように財布からお札を二枚取り出した。諭吉氏…!
「え、そうか?」
「そうですよ!お弁当なんて、作ったらそんなかかりませんから!」
まぁ今まで買い食いをしてたんだから、月にそのくらいかかっていたのかもしれない。
「へー、本当に大木はしっかりしてるなぁ!じゃあこれでいいか?」
「いや、これでも多いくらいで、」
「いいから、細かいことは気にするな!駄賃だと思え!」
へらりと笑って握らされたお札一枚に、豪快なのも課長の性格だと納得してありがたく頂いた。
クリーニング屋さんは、課長の家よりも会社側にあるのでもう着いてしまう。でもこの数分間の為に今日は気合い入れた服を着てしまった…。やっぱり、七松課長に可愛いと思われたいし…!そうこう考えてる間にすぐにクリーニング屋に着いてしまった。は、早かった…。もっと話せばよかった。
「あ、あれ、課長」
「ん?」
「クリーニング屋さん…はここですよね?」
「ああ!」
「あ、じ、じゃあ、私はここで…」
てっきり一緒に行ってくれるかと思ったけど七松課長はクリーニング屋を素通りして行った。か、勘違いだった。カカカと羞恥で熱が上がる。落ち着け私…ここまで並んで歩けただけいつもよりラッキーだからな…よし!
「あ、これ、お借りした服です。持たせてしまって悪いんですが」
「ああ!洗ったのか?律儀だなぁ」
「いえ!じゃあ、お疲れ様でした」
「ん?どうした」
さっさと引き取って帰ってしまおうとクリーニング屋を向くとグイッと腕を引っ張られた。振り返って七松課長を見ると目を点にしてる。いやこれはいつもか。
「え?あの、私スーツが…」
「うん。だから、家にあるぞ」
「え?三日後に出来るって言ってましたよね…?」
「ああ!いつも、クリーニングはマンションの宅配ボックスに届けてくれるんだ。だから家にあるぞ」
「あ、そういう事ですか…」
納得して、まだ一緒に居られるのがわかって顔がにやついてしまう。「じゃー行くぞ!」って七松課長は歩き出した。
「あっ!服、家まで持ちます!」
「私の服だし、気にするなー」
七松課長、にこにこしてる。可愛いなぁ。
「何か、嬉しそうですね」
「んー?大木が、嬉しそうにしてるからな!」
顔に熱が集まるのを感じながら、そーですか、とだけ返した。私が嬉しそうだと、七松課長も嬉しくなるのか。そうか。
…うああああヤバイ信じらんない可愛いぃ…。
マンションのエントランスにある宅配ボックスからスーツを取り出して貰うと、持ってきておいた少し大きめのショップバッグに入れた。今度こそお別れだ。だけど、心は嬉しくて、ルンルンしながら帰れそう。課長を見上げると私の肩から荷物を奪った。
「大木、飯に行くぞ!これは置いてけ!」
「あ、…はい!」
もしかして、七松課長も私と居たいと思ってくれてたりするんだろうか。そうだったらこんな嬉しい事ないのに
エレベーターに乗り一度七松課長の家にお邪魔すると、着替えるから待てと言われて頷いた。
らいきなり目の前でシャツを脱いだ。
「すっ、…すみません!!!」
「え?何が?」
七松課長の胸筋を見て初めて課長の家に来た時の事を思い出した。七松課長は見られても何も感じないだろうけど、今の私はやましすぎる…とてもじゃないけど見れません…!
「なんか服、いー匂いするぞ」
「あ、柔軟剤、入れたから…」
「それって、あの青いやつか?」
「そうですよ」
背を向けたまま会話をする。前回コンビニで売ってた柔軟剤、パッケージ青いやつだった。まだごそごそと音が聞こえてズボンを履き替えてるのかなぁって私はなにを考えるんだよぉ!思わず壁に頭を叩き付けた。
「なぁ」
「は、はい…っ?!」
両手をついて深呼吸していたら上から声が聞こえて、見上げると七松課長が覗き込んでいた。背中に熱を感じる。ち、ちか、近…。
「どうやってする?」
「えっする!?するって、な、なな何を…」
「柔軟剤。どうやって使うんだ?」
「あ、あぁ、あぁ…柔軟剤」
また、キスされるかと思った…。
落ち着け…落ち着け私ぃ…!
コホンと一つ咳払いをして七松課長に向き直る。洗濯カゴ…うん。山盛りですね。
「私、やりましょうか?」
「頼む!」
「…で、洗濯物を洗濯機に入れたら洗剤投入口から洗剤を入れるんですよ」
「そんなもんあるのか?」
「課長、いっつもどうやって洗濯してるんです…?」
「洗濯物と一緒に入れて」
そういう事…。ここです、と投入口を引き出せば七松課長はおおっ!と感動していた。男の人ってこうなのか…?いや、でも私も一人暮らし初めて1ヶ月は気付かなかったし子供は皆知らないよな…子供の概念が何歳までかわかんないけど。困った時ついお母さんに頼るうちは一生子供だよ。
液体洗剤、漂白剤、柔軟剤を入れ終えて蓋を閉じる。ふとしゃがみこんで洗濯機を見ていた七松課長を見ると、頬杖を付いて私をじっと見ていた。
「あ、わ、カリマシタ、か?」
「はは、何で片言」
緊張して言葉が上手く出てこなかった私に、七松課長は今まで見たことのない微笑みを浮かべた。目が、優しく笑ってるなんて、反則だ。
顔にぶわぁっと熱くなる。絶対今首まで赤い…。
「こうやって家事やってくれるっていいなぁ」
七松課長はグルグル回る洗濯機を見ながらうんうんと頷いて笑っていた。私も、七松課長の家事ならやってあげたいです。とは言えないからそうですね、と返した。洗濯機から私に目を移した課長は、無邪気という言葉がぴったりな笑顔で言った。
「お前、一緒に住むか?」
ぶ、ぶっ飛びすぎ…!
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