あれはもう遠い記憶になってしまった入社初日の勤務。

一緒に配属された数人と緊張して入った広いワンフロアのオフィス、無数のこちらを見る目。挨拶もそこそこに一際大きな目でじっと見つめられて思わず目を合わせたのが始まりだった。


「うーん……よし!これもーらい!」


終わりだったか?





「七松課長ーー!!お弁当買ってきましたからーーー!!!どこですかーーー?!」


私の声がビルの非常階段に響く。すると何処からか駈け降りてくる足音。一々探さずにここで叫べば聞こえると、半年位で気付いた。

お弁当の買い出しや出前の注文などは私達女子社員の仕事だ。後輩はいるけど、下の男子は外回りもあるし専ら事務専の女子がやる事にした。課に戻ると課長のデスクに買ってきたお弁当とペットボトルのお茶を置く。ちなみにお茶は2リットルあるが、お弁当がなくなる頃には無い。胃どうなってんの?

それから他にも頼まれたお弁当を渡したり置いたりが終わる頃に大体戻ってくる七松課長の所へ行く。あの人お金後払いだから。だけど今日はまだ来ないから、まぁ急いで回収するもんでもないし先に食べる事にした。鞄から作ってきたお弁当を取り出す。入社1ヶ月、よくわからないままお弁当を買っていたら散財したのと弁当太りしたのを私は二度と忘れない…。


「おーい大木、いくらだった?」

「もももふはほう、んく。お帰りなさい。950円です」

「わかった!釣りはとっとけ!」


後ろからひょこりと顔を覗き込まれてぎょっとした。食べてるもの吐き出さなくてよかった…。千円札を渡して笑う七松課長。お釣りはあるけど、こういう時は素直に受け取っておくべきだと学習した。


「ありがとうございます」


しかしお礼を言っても立ち去ろうとしない。何で?見られてると食べれないんですけど。七松課長の目線を辿れば私のお弁当がある。


「あの…?」

「それ、お前が作ったの?」

「はい」

「はー、すごいなー。私は料理なんて出来ない。やっぱり女の子は違うなぁ」

「これくらい、皆出来ますよ」


そんなに誉められると照れてしまう。いや、照れると言うより怖い。誰かに見られたらどうするんだ。この弁当見てよ?おかず卵焼きと漬け物と鮭だけじゃん。何を思って凄いって言うんだよ。
七松課長はにかっと笑うとまるで某海賊アニメの決め台詞の様にドン!!!!と言った。



「よし、決めた!お前、私の弁当も作れ!」





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