「な、七松課長!」
「お前、業務中に何してるんだ?」
声を辿ると、非常階段から課長が現れた。よかった、私の声聞こえたんだ。ホッとして七松課長の背中に逃げ込んだ。
「お、お前もこの会社だったのか…!」
「私の部下に、何か用か?」
「ふん、貴様も昨日の礼はしてやる。部署は何処だ?次の人事で部長に言って左遷してやる」
「か、課長…この人、人事部らしいです…」
「…あぁ、じゃあ、仙蔵の部下か」
「えっ…」
立花部長、そう言えば人事部だったっけ。
立花部長の名前出された途端おじさんの顔が真っ青になった。
「次の人事、楽しみにしているとお前の部長に伝えておこう!大木、それとも警察に渡してやるか?」
「あ、…あ……!」
「…いえ。私は特に、何もされてないので課長にお任せします」
「わかった!」
七松課長は口元だけで笑っていた。ち、ちょうこわい…。本当に味方でよかった。
「わかったら仕事に戻れ。身の回りの整理もしておけよ」
「は、はい…!」
おじさんはエレベーターを待たずに階段をばたばたと登って行った。さよなら…本当に良い気味ですおじさん…。
「大木、お前何でこんな上の階に居るんだ。資料室はもっと下だろー?」
「え?あ、昇りのエレベーター乗っちゃったのか…」
どうりで見たことない筈だ。一人納得していると鬼のような声が聞こえた。
「エレベーター乗ったのか?」
「すいませんでした!行きは、歩きました!」
そうだったおじさんのせいですっかり抜けてたけど七松課長にエレベーター禁止令出されたんだった!七松課長はため息を吐いた。そんなに見苦しいですか…?!でも元はと言えば課長がこの制服持ってきたから…。落ちていた資料を拾い上げお腹らへんを隠した。
「もっとハッキリ言っておけばよかったな」
「?」
七松課長は人差し指で頬を掻いて困った顔をした。
「今日のお前、何か…説明がつかんが危ないと思ったんだ!エレベーターなんか、密室だから危ない。だから今日は乗るなよ」
「は、はぁ…。あの、制服のサイズ替えたらダメですか?」
「えー、似合ってるから、今日はそれで居たら?」
つまり、課長が見たいのか…。でも似合ってるから、なんて言われると恥ずかしいけど嬉しくて、思わず頷いた。
「本当に気を付けろよー。もう今日はデスク仕事でいいから」
「は、はい」
「まぁ、ちゃんと私を呼んだから今回は許す!」
七松課長に手伝ってもらって資料を拾い終わり、階段で降りようとするともう一度言われた。危ない危ないと言うのに着ておけと言うのは、何か子供みたいだ。だけど呼んだら本当に来てくれて、助けてくれた。ヒーローみたいだ。
「また人気の無いところに行ったら何があるかわからんぞ?」
「ふふ、分かりました」
さっきの事を恐怖で終わらせない為に冗談を言っているんだと思って笑った。だけど立ち止まった七松課長を見上げるとそういう表情でもなくて。
真っ直ぐに見つめれらた後、耳元に顔を近付けて囁かれた。
「私だって襲いたくなる」
そう言って顔を離すかと思ったら、唇を奪われた。離れた顔は意地悪く笑う男の人。
「大木、行くぞー」
「…………は、い」
どうしよう。
心臓が壊れそうに痛い。
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