気のせいかな?皆がこっちを見ている気がするのは。いや気のせいじゃない。今、私たちは、注目の的なのである。何故かと言えば…。


「悪いな!そんな服しかなくて」

「い、いえ…」

「伊作も悪気はないんだ。許してやってくれ!今日は受付の制服借りてきてやるからそれを着ろ!クリーニング、三日後だって言ってたから」

「は、はい…あの、七松課長、もう少し声を小さくし」

「スーツ仕上がったら私の家に取りに来いよ!」


だから声を小さくしてぇーーー!!!もう皆ッッ見てるから!エントランスホールに七松課長の声響いてて皆見てるから!!!そして私!ダボッダボのポロシャツとダボッダボのジーパン出社で更に注目集めてるからぁ…!!





事が起きたのはもう夜が明け始めた頃だった。本当に朝まで飲んでいた課長達は酒が進めば進むほど元気になっていって、こいつら酒じゃなくてポーションでも飲んでるんじゃね?と思っていた。


「大木、赤ワイン取ってきて」

「はぁい…」


眠い。そして風呂に入りたい…。
てっきり3時頃には寝るのだろうと思ってたのに。そしたらお風呂借りようと思っていたのに。何なの。皆昨日働いてたよね?今日も仕事だよね??ふらふらと台所へお酒を取りに行くと言われたお酒を取る。大体富松、お前が率先して私を休ませろよ。何故お前まで私を使うんだ…。


「どうぞー」

「あ、ありがとう。貰うよ」


善法寺課長が手を伸ばしたので瓶を手渡した。あー…ダメだ、限界。七松課長にお願いして風呂と布団を借りよう。そう思っていたら後ろから凄い音がした。ズゴシャ!


「わっ!!!」

「ひぃっ!!??!」


突然降りかかった何かに反射的に目を閉じる。目を開くと大変な事になっていた。

木製のテーブルだったから気付かなかったがこたつだったらしく、天板が外れて斜めになったテーブル。上に置いていたつまみ類が床に散らばっている。そしてずれた事でのぞいた机の穴に腕を突っ込んでこけた善法寺課長。もう片方の腕にはボトボト流れる赤ワイン。そして頭から赤ワインを被った私…。

なるほど。手を付いた所にテーブルの天板がなかったんですね…?


「あっ、あははははー!今日は、不運じゃないと思ってたらやっちゃったよー!」

「全く。来ないからどんなドでかいのが来るかと思ってヒヤヒヤしたぜ」

「さっ、不安要素も無くなったし飲み直すか」


課長達は慣れている事らしく、皆自分のコップを手に持っていた。被害は七松家の床と私だけだった。眠くてイライラした私は


「どいて下さい…」

「え?」

「皆 ど い て く だ さ い。掃除しますからベランダで飲んでて!!あと七松課長お風呂借りますからね服貸してくださいお風呂終わるまで絶対ベランダから出てこないで下さい良いって言う前に戻って来たら女子社員にあらぬ噂流しますからね…!!」

「お、おぉ…」





結局掃除と風呂を済ませた私はそのまま眠ってしまった。朝起きてから土下座した。
朝イチに皆と別れて七松課長が近所の仲良くしていると言うクリーニング屋さん(自宅の方)を早朝訪問し無理を言ってスーツを預かって貰った。だから課長の私服で出勤したのだが…。私服出勤は問題ではない。スーツをロッカーに置いて私服で来る人も居るし、受付の女の子なんかは制服だからそうだ。男性社員も居なくはない。


「(問題なのは、もうすでにこの服が七松課長の物だとバレている事だ…)」


七松課長の声は大きい。朝から、こんな出勤時間で人が集まっているエントランスホールでこんな会話をしたら私は間違いなく七松課長と一夜を共にした関係だと思われる…。いや、間違いではないよ。だけど居たからね!もっともっと人が居たんだからね!!もう、ほらぁ…受付の子が凄い顔でこっち見てるからぁ…七松課長一緒に働かない女子には人気だからぁ…。

昨夜のキスの事も結局聞けず終いで、七松課長の態度もなーんにも変わらないからこっちも普通にしてるけど…。もしかしたら朝二人きりになった時に何か言われるのではとドキドキしたけどそんな事はなかった。

『好き合っていると、感じたからだ!!』

あの言葉を思い返すと他にも色々思い出して顔を覆ってしまいたくなる。色んな意味で。
七松課長、好き合ってる、って言ったよね…。それって、課長も私の事好きって事でいいのかなぁ…?


「大木、こっち」

「え、あ、ありがとうございます…」


満員のエレベーターの中で、壁際に囲ってくれた。潰れないように気を遣ってくれたんだ。見上げると逆行で顔がよく見えない。それが昨日の事を思い出させて心臓からカァッと熱くなった。


「どうした?」

「い、いえっ…」

「?私は仙蔵の所で制服借りてくるから、先に降りて行っていろ」

「あ、は…」

「よし、じゃあ後でな!」


エレベーターが開くと私の胸ぐらを掴んでポイッと外に投げられた。体が飛ぶ体験なんてそうない。暫く体が震えて四つん這いのまま動けなかった。



「…大木、何だその格好は…どう見ても男の服…」

「朝帰りだ…」

「昨日七松課長とご飯食べるって言ってなかった?」

「マジかよ…同期が上司とデキてるとか…姐さん…」

「本ッッッ当にあんた達が一番面倒だわ。滝先輩早く来てこいつらまとめて下さい…!!」





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