「そう言えば、善法寺課長の連絡先知らない…」


仕事終わったら空けとけと言われたけど、どうすれば良いんだろう。時刻は間もなく6時。善法寺課長の所の研究開発課に行くべきかなぁ。
業務は一区切りついていたので机の上を整頓して書類の確認をする。明日の仕事の準備もして帰ろう。


「おーい大木ー」

「あ、はい」


七松課長に呼ばれて席を立つ。何か出し忘れてたかな?課長のデスクの前に立つと、腕を組んだ七松課長が首を傾げた。無意識に首を傾げていた様だ。真似されてた。課長可愛すぎです自重して下さい。


「今日、私の家で飯だ」

「…ん?」

「皆で私の家で飯だ。大木も連れてこいって」

「あぁ…」


きっと善法寺課長だな…。だけど、七松課長の家でご飯って事は…彼女さんの手料理って事ですねきっと…。さ、最初から七松課長と彼女さんの幸せオーラに当てられるとか、レベル高い…。


「って訳で行くぞー!」


勢い良く立ち上がった七松課長。時計を見るといつの間にか6時を過ぎていた。たったか進む七松課長を追いかける為に鞄を引っ付かんだ。






「あ、あの…」

「ん?」

「私、本当に行っても良いんですかね?迷惑なのでは…」

「大丈夫だ。皆いい奴だったろ?同じメンバーだから」


いや、課長達じゃなくて、彼女さんの事ですよ…。
自分から紹介してくださいと言ったものの、七松課長の家が近付くに連れて胃がそわそわしてきた。自分の彼氏と噂になってる女が紹介して欲しいと言っていると伝わった時に、どんな思いだ…?ひょっとして喧嘩売ってると思われない?ねぇ、私選択間違ってない??
課長の家は歩いて15分バスで5分の超近場で言ってる間に着いてしまう。段々のろのろ歩きになってしまう私に七松課長は首を傾げた。


「何がそんなに心配だ?」

「…あ、あの。七松課長って」

「あ、電話だ」


私が言いかけた時、七松課長の携帯が鳴った。ジェスチャーで悪いと片手を上げた課長に、どうぞどうぞと手のひらを見せる。


「もしもし?…ん?エプロン?」


その単語にドキリとする。電話の相手、彼女さんだ!


「どこだったかなぁ。台所じゃないか?私、台所は触ってないからな!ん?そうなんだ!綺麗だろう!私の部下がやってくれたんだー」

「あわわわわわ…」

「ああ!この間の飲み会の、女の子で」

「わあああぁぁぁ!!!!」


もうやめ、やめてー!!!私は七松課長から無理矢理携帯を奪った。課長がキョトン顔でこっちを見てくる。


「おっ、お疲れ様です!!企画営業課の大木と申しますいつも七松課長に大変お世話になっております!先日七松課長をお宅まで送った際少しばかり片付けをさせて頂きました大変出しゃばった無礼な真似をして誠に申し訳ございません!!本日善法寺課長に申しましたのは此度の噂の否定と謝罪でして決して悪意あるものではございません!!あの、今すぐ直接謝りますうううう!!!!!!」


ブチりと携帯を切ると既に見えている課長のマンションへ一直線に走った。後ろから七松課長が「なんだー、競争か!?おもしろい!」とか言ってすぐに私を抜かして走り去った。は、早ぇ…!!





「ゼェ、ゼェ、ハァ…全、然、息が、戻らない…」


エレベーターに乗って階につく前に息を整えたかったけど、久々の全力疾走で心臓と脇腹が痛い。体も震えてる。


「大木遅いぞー」


玄関の扉を開けて七松課長が腰に手を当てて待っていた。片手には缶ビール。早い…いろんな意味で早いよ…。


「あ、来た来たー」

「ぜ、善法寺課長、お、疲れ様です…」

「さー入って入って!小平太のイイ人がつまみ作って待ってるから」

「私のいーひと?」

「あ、ちょっ、まだ心の準備がぁ…!」


ひょこりと現れた善法寺課長に背中を押されて足が進む。七松課長は扉を少し譲って先に私を通した。玄関に入ると仁王立ちの人物がいた。


「あ…………中在家、課長…お疲れ様です…」


中在家課長の姿を見て思考が一瞬止まった。まさ、か…?ゆっくりと善法寺課長を振り返ると人の良さそうなへらりとした笑顔を浮かべた。



「紹介するよ。いつも小平太の身の回りの世話を焼いてくれるイイ人の中在家長次君でーす!」



中在家課長は私が見付けた、どこから見ても明らかに女性用のそれを身に付けていた。肩のフリルと前掛け部分がハート型の純白のエプロン…激似合ってる…。じゃなくて、



「ええぇぇぇぇーーー?!」





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