私は数週間振りに忍術学園に戻って来た。

暫く用事で学園を離れていた。学園を出る時、懐には学園長先生に一筆頂いた文が数通入っていたが今はもう無い。

くのたまと忍たまが衝突する前に事態を動かす必要があった。本音は、七松君が悲しむ前にどうにかしたかったからだけど。
天女様が承諾すればと言う条件で学園長先生も協力して下さった。何とか手筈は整えた。後は、天女様をどう誘導させるか。
正直、使いたくはないが案はある。本当に出来れば使いたくないけど…。とにかく一度話してみない事には進まない。


「失礼します。くのたまのあきです。戻りました」

「うむ。入りなさい」


学園長先生に報告をしたら、次はシナ先生。そしてそこからが正念場だ。


「色好い返事を貰って参りました。学園は変わりありませんか?」

「そうか。生徒達は、相変わらずじゃ。衝突はまだ無い」

「わかりました。ありがとうございます」


大義名分は、学園の為。しかし本当は個人的な理由で協力して頂いた。深く頭を下げて庵を出る。
実行は早い方がいいだろう。













「天女様。くのたま上級生のあきと言います。少しお話出来ませんか?」

「え?はい…」


夜も更けて、職員長屋の一室の前に立つ。蝋燭が灯っていたからまだ起きていたのだろうが、扉を開くと布団の上に座る天女様。話すのは、初めてだ。天女様は私の顔を見て、わずかに顔を歪めた。彼女は私の事を七松君の件でよく思ってないのは知っている。


「あの、何ですか?」

「天女様にご相談があって参りました」

「相談?私に?」

「はい。実は、いくつかの城から天女様を養子に取り姫にしたいと言われております。我々は、貴女を天にお返しする方法はわかりませんが、事務仕事や雑務仕事をして頂くより天女様にはいいのでは無いかと思いまして」

「え、えぇ?いや、私なんかがお姫様なんて、何もわからないし!」

「そんな事ありませんよ?天女様はお綺麗ですから」


そうかなぁ、と嬉しそうに笑う。掴みはいいな。


「どの城も忍術学園と友好でいい城と言えます。天女様を迎えたい理由は様々ですが、ご子息のお相手にしたいというお声が多いですね」

「え…?ちょっと待って」


それまで満更でも無さそうに笑っていたのが突然声色が変わり、表情が睨み付けるように恐くなる。


「私、お嫁さんになんて行かない。好きな人が居るの」

「それは、そうでしたか…大変失礼しました。では、城勤めとして働き手を探している城もありましたがいかがですか?」

「…ねぇ、あなた。もしかして私を追い出そうとしていない?」


天女様は冷たい声で言う。どこか、確信めいた響き。まぁ、その通りなんだけど。


「…騙すような真似をして申し訳ありません。実は、くのたま側に不穏な動きがあります。好きな人に天女様が好きだからと振られたと、それを理由に天女様を排除しようとしている奴らが居るんです」

「そっ、そんなの、私のせいじゃない!」

「そうです。ですから、天女様に被害が及ぶ前に安全な場所へ逃げて頂きたいのです」

「そ、そんな…そうだ、忍たまの六年生に相談して事を治めて貰うのはどう?」

「それではくのたまと忍たまの対立になってしまいます。学園側が困る事態は賛同できません…」

「で、でも…」


中々、首を縦に振らないな。あまり長居していると、忍たまの奴らが寄ってきてしまう。ここまでは予想した通りに話が進んだけど…使いたくなかったが、使うか。


「天女様」

「な、なあに」

「ご案内するお城は、忍術学園と友好的です。城へ就職する忍たまも多いですよ」

「!…お城の名前、教えてくれる?」

「はい」


私は懐から紙を取り出して広げる。不思議そうに覗き込む天女様。あぁ、貴女文字が読めないんでしたね。
一つ一つの城名を読んで行くと、ある城の名前で天女様が反応を示した。やっぱり、こうなったか。


「キヌガサタケ城…そこは…?」

「キヌガサタケ城は、城主様がご高齢で跡取りが不在です。天から現れた天女様のお噂を聞き、是非養子縁組みを、と…」

「そ、そう…。私、そこにするわ!」

「…わかりました。天女様、学園の為に決心して頂きありがとうございます」

「ふふ、いいの。皆仲良く元気にお勉強しなきゃいけないもんね」

「学園長には私からお伝えしておきます。日にちは追ってお話を。では、夜分に失礼しました」


部屋を出てくのたま長屋へ走る。一息も着かぬままとにかく走った。

キヌガサタケ城は、七松君が内定を貰っている城だ。きっと天女様もその話は知っていた。
部屋に着き、扉を閉めるとずるずると座り込む。


「これで、いいの…七松君はこれで笑ってくれるんだから…」


天女様が学園を去れば元通りになる。七松君は喜んでくれるんだ。だけど、彼女はこの先ずっと彼と共にある事になる。卒業まではまだまだ時間があるけど、自分で絆を作ってしまったようなものだ。
彼は優しいから、きっと贔屓のつもりは無くても彼女の事を気にかけるだろうなぁ。思わず自嘲する。


「ばっかみたい…」





聞いて。天女様が、決意をしたのよ。

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