放課後の校庭が騒がしい。何だと友人達と塀をよじ登ってみればそこには六年生の集団と一つの不思議な衣装。あぁ、あれが噂の天女様?
「小平太!お前の豪速球が天女様に当たったらどうする気だ!!」
「すまん!居ると思わなかったんだー」
「まあまぁ、私は大丈夫だし。小平太君のバレーしてるとこは勇ましいよ?だから怒らないの」
「全く天女様も甘いですね。怪我をしてからじゃ遅いですよ?こいつも調子に乗るから…」
「もんじろーは私に優しいねぇ?」
「い、いや…」
潮江くんがはにかんでる…。私は可愛らしいなあと思ったけど他のくのたまは腹を抱えて震えていた。
「あっ、あきー!」
落ち着け落ち着けと友人達の背中を擦っていると私を呼ぶ声。首を動かして見れば七松君がこっちへ走ってくる。
「こんにちは。騒ぎ声が響いてたから見に来たんだよ」
「あぁ!文次郎は声が大きいからなぁ」
「七松君も大きいよ…」
ひょいと塀の上に飛び上がると七松君は私の横へ来て顔を覗き込んだ。
「な、なに…」
「なぁ、あき髪紐持ってる?」
「髪紐…?部屋に何本かあるけど…」
「そうか」
すると七松くんの両腕が伸びてきて私の顔を通りすぎていった。体は密着するかと思うほど近い。パサリ、髪の毛が舞う。七松君が離れて心音が煩くなって戻ってきた。息苦しい。無意識に息を止めていた。
「天女様が、また私の髪紐が欲しいと言うんだ。私はもう持ってないし、貰ったやつは使いにくいし、だからこれを貰う!」
その場でささっと付け替えて七松君は塀から降りた。一度振り返ると大事にするからと笑って輪に戻って行った。
「あー、もう、駄目…今顔見せらんない…」
「にやけ顔なら、見飽きてるから大丈夫。それより天女様がおっかない顔で見てたよー」
「ありゃー七松がお気に入りだね」
そう言われてにやけた顔のままあの集団を見る。今は可愛らしく笑っておられるけど…でも何となく解っていた。髪紐やボーロの件で天女様が七松君が好きなんじゃないかなって。
「好きな人の物が欲しいなんて、天女様も人間と変わらないなぁ」
見つけてくれると嬉しくて。