「天女様、お元気でー!」
「寂しくなったらいつでも遊びに来てくださいねー!」
「ふふ、皆ありがとう。大変お世話になりました。キヌガサタケ城にも遊びに来てね!なんて、そんな大口叩ける様な身分じゃないけど」
「そんな事ないですよー!お姫様になるんだからっ」
「わーいお姫様!きっとお着物が似合いますぅ」
「お姫様!バイトはこの僕にお願いしまっす!」
出立の前、門の前にたくさんの見送りが集まっていた。天女様の回りに一年生達が集まって、膝をついて話を聞く天女様は優しく微笑んでいた。
「おい、天女様を無事に送り届けてくれよ」
「…あぁ、潮江くん。了解しました」
「本当は俺が行きたかったが…」
「潮江くん、私は優秀だよ。って七松君が言ってた」
「ふ、お前じゃねぇのかよ」
まぁ頼んだ。と潮江くんも輪の中に入って行った。皆が皆、別れを惜しんで温かな円が出来ている、そこから外れてぽつんと立っている私は、端から見たら不躾なのかなぁ。
「あきちゃん。キヌガサタケ城のお迎えが来たよ」
「小松田さん。ありがとうございます」
迎えの知らせを受け、輪の中に入っていく。だけど私だけ馴染まずに、ヒビを入れてるみたいに円が割れた。
「天女様、迎えが到着しました」
「そう…。皆、本当にありがとう。このご恩は一生忘れません!」
瞳を潤ませて深く頭を下げた天女様に、低学年の子達はわあっと泣き声をあげた。一度引いた輪がもう一度集まっていった時、天女様の後ろに七松君の姿が見えた。
「あ、七松君…」
「あき!気を付けてな!天女様を頼んだ」
「うん。あの、私ね」
「ん?」
「あきちゃん、待たせると悪いから、行こう!」
「あ、はい…」
「小平太君、またね!」
「ああ!またな!」
私の言葉は遮られ、最後まで続けられなかった。
大勢の目に見送られて門をくぐる。
一度振り返ると七松君が私を見て手を振ってくれた。
本当は発つ前に七松君に伝えたい事があった。今まで私達は気持ちを言葉にした事がなくて、だけどそれでもよかったと思っていたのは他に誰も間に入ろうとしなかったから。天女様に危機感を覚えての事だから、取って付けた様に感じられるかもしれないけど、それでも言葉にしたかった。言葉にして、自分が安心したかった。
「まぁ、いいか…帰ってからちゃんと伝えよう」
これが最後。だとは知らない。