「ねぇ、あきちゃん。貴女にお願いがあるの」
いつもの様に七松君と話していれば現れた天女様。彼女は、ついに明日忍術学園を去る。
半ば諦めてそっと彼の背中を押そうとしたら、天女様が呼んだ名は彼ではなく私だった。
「私…ですか?」
「うん、そう。あ、小平太君も居ていいよ!」
「そうか?」
気を遣い去ろうとする七松君の手を天女様が優しく握り引き止める。自然と二人が横に並び私に向き合った。これだけで心が真っ黒く塗り潰されそうになる私はくの一失格だろうか。
「実はね、キヌガサタケ城に行くのに必要なら護衛を付けても良いって言われてるんだけど、気の許せる子を連れて行っていいよって言われてるの。だから、それをあきちゃんにお願いしたいんだけど、ダメかな?」
「それは構いませんが…私で良いんですか?」
小首を傾げ尋ねる姿は可愛らしい。だけど、どうして私なんだろう?それこそ、七松君を指名すればいいのに。
「うん!だって、女の子の方が色々分かってくれるでしょう?くのたまの女の子で話せるの、あきちゃんだけだし…」
「そうですか…わかりました」
「ああ、それがいい!あきは優秀だからな!」
「そうなんだ!じゃあ決まりねっよろしくねっ?」
七松君が傍に来て私の肩を叩く。すると天女様も寄って来て私の手を両手できゅ、と握った。その掌が赤子のように柔らかくて驚いた。
「ねぇ、皆が夕食後にお別れ会を開いてくれるって言うの。だから来てね?私の部屋だから」
「は、はぁ…」
「よぉし!じゃあ、小平太君は長次君とお部屋の飾り付け係だからね、行こう!」
「えー、私そういうの苦手だ…」
「ふふ、なぁに、未来の君主の命令だよ?なーんて。あ、あきちゃん、じゃあ後でね?」
自然と一度離れた距離を詰め、天女様は七松君の手を再び取って引いていく。
七松君は一度此方を振り返ったけれど、手を引かれるまま行ってしまった。
「これが、最後…。最後だから」
自分に言い聞かせる為に口に出す。七松君を奪っていくあの人は明日居なくなるんだから、大丈夫だから。
だけど、七松君、気付いてるかな?最近の七松君の話はもうずっと天女様の事ばかりで、それじゃあまるで。
許す限りの時間をあげる。
(まるで天女様が好きみたいだよ)