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あきは豆腐を持ってうろうろしていた。
兵助が見つからない。もしかして何処かへ出掛けてしまったのだろうか?不安になり困り顔のまま首を左右に向ける。
「あれ?君…」
ふとこちらに近付いて来たのは派手な頭の色をした男。知っている。元髪結いの奴だ。
あきの手元を見て、再び視線が合う。
「もしかして、兵助くん探してるの?」
「ふ、ふん。そうだけど、知っているの?」
「うん。あ、僕は斉藤タカ丸。付いて来て」
「?」
「今日は火薬委員会があるから、兵助くんなら煙硝蔵だよ」
なるほど。委員会の事を忘れていた。あきは頷くと大人しくタカ丸の後を追った。
「タカ丸さん、遅いです」
「ごめんね。兵助くんを探してた子が居たから連れてきたんだ」
ほら、とタカ丸の後ろから顔を出した姿を見てあぁ、と頷いた。委員会中はさすがに食べれないので隅に置いておいて、と言うとあきは大人しく従った。
「久々知兵助!」
「何だ」
「委員会の仕事…手伝ってあげてもいいわよ!」
「いい」
「!な、何でよ」
「女の力じゃ手伝える事はないのだ」
「!、っひ!く」
「へ、兵助くん、もっと言い方を変えなよ…」
泣いたあきにオロオロしてタカ丸が間に入る。兵助は不思議そうにタカ丸を見た。
「あきちゃん、兵助くんはね、火薬委員会の仕事は重たい物の整理や掃除がメインだから、女の子には大変だって言いたいんだよ」
「だから。さっきそう言ったろう」
優しく笑うタカ丸と真面目顔の兵助を見比べてあきは戸惑う。つまり気を使ってくれたと言うことか…?心がほんのり温かくなる。
「じゃ、じゃあ…久々知兵助が委員会を終えるまで豆腐を誰かに食べられないように見張っておくわ」
「その任務、重大だからな」
「ふん。馬鹿にしないでよね」
「ふふ、仲良しだね」
二人のやり取りにタカ丸は笑う。先日あきを抱えて走る兵助を見た時は何だろうかと思ったが中々いい関係らしい。
「久々知せんぱーい!遅くなってすいません。池田三郎次先輩が意地悪するから、」
「し、してないだろ。お前達一年生の反射を鍛えてやろうと池に突き落としただけだ」
「だからそれ意地悪なんです!!」
「伊助落ち着け。三郎次も、度が過ぎるから…」
「久々知先輩は僕が悪いって言うんですか!?」
「い、いや、だから…」
兵助の見たことのない先輩の顔が優しくてあきは微笑んだ。
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