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最近のあきは豆腐と一緒に薬味まで持ってくる。今日は茗荷。兵助はマイ箸とマイ醤油を持ち歩いている。
「また豆腐やってんのかー?あきちゃんも懲りないなー」
「ふ、ふん。あんた達に関係ないでしょ」
あきの態度におや、と八左ヱ門は思った。
いつもはもっと、言い返してくる言葉に力がなく目には涙を溜めているのに。何だこの自信ありげな態度は。心なし見下された気がする。少しムカつくのは、何でだろう。
「お前ら何かあったのかー?」
「あら、聞いてないのね?私達、恋仲になったのよ」
「え!?」
一体いつの間に。八左ヱ門は驚いた。あきの態度の理由はわかったが、兵助が女の子に興味を持ったことが信じられない。
八左ヱ門が驚き言葉を発するのを忘れていると、どこからか三郎が現れた。
「兵助、それは本当か?」
「いや」
「な、な…、!」
「即否定されてら」
「何だ、あきの勘違いかよ」
「ひっく、…く、久々知の豆腐狂ー!!」
「ありがとう!」
逃げていったあきを見て、いつも通りで安心した八左ヱ門。いやでも応援はしてるぞと自分に言い聞かせた。
しかしあきがあんな勘違いをするとは何があったのだろう。
そんな事を考えていると兵助が豆腐を食べ終えて立ち上がった。
「おい、どこ行くんだ?」
「恋仲になった覚えはないが、傍に居る約束はした。水切りしなくちゃ」
「…はぁ?」
「どうなってんだ一体…」
「でも、少しはいい方向に進んだ…のか?」
「そう…なのか?」
長いこと友人をしている二人だが、たまに兵助の考える事はよくわからない。
「ひっく、ひっく、」
「おい」
「く、久々知兵助…なによ、」
「水切りしなくちゃ。だろう?ほら手拭い」
「ふん…いらない!あっちいって!」
「いかない」
「…なんでよ」
「お前が言ったんだ、俺にとっての豆腐が、お前にとっての俺だって。だから俺はいついかなるどんな時もお前といっしょにいる。ずっとな」
「そ、それってプロポーズ…」
「いや?」
「く、久々知兵助の豆腐小僧!!!」
「ありがとう」
だけど、追いかけて来てくれた事が嬉しくてあきは笑った。
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