「夢…なのかな……」
この間の鉢屋くんが忘れられなくて、最近の私は部屋にこもりがちだった。何ていうか、何をしようとしても鉢屋くんを思い出してしまって、そうなるともう……
「っあーー!!!!」
「うるさい。次叫んでみろ、松の木に逆さに吊るしてやる」
「ごめんなさい」
顔を覆って右に左に転がっていると、同室の友人に本気の殺意で睨まれた。すいません、一日三回まででしたね。とにかくこんな感じで、授業中だろうと廊下を歩いている途中だろうと顔を覆って突っ伏したりしゃがみこんだりしてしまうので、人の迷惑にならぬよう自室にこもっているのだ。
鉢屋くんはと言うと、あれから甘い空気になって…とかいう事もなく、普段通りの鉢屋くんで、今でもたまに面接官を発揮されて恐ろしい。あの日の鉢屋くんは何だったんだ。とも思うけど、たまに見せる笑顔が優しくて、それだけで十分だと思ったり。
「………」
「うるさい」
「まだ何も言ってないよ?!」
「顔がうるさい。さっさと逢い引きに行ってくれば?」
「…うはっ」
「行け。消えろ」
「すいませんでした」
友人が鬼の様だったのでいつもより早く待ち合わせ場所へと向かった。しかし、悪くは思っていないって事は、期待してもいいのかな。最初から考えたら随分いい方向へ進んでいるし…。何か調子に乗ったら、足下掬われそうだな。油断せずに行こう…。気を引き締めて待ち合わせ場所へ向かうと、腕組みをした鉢屋くんが立っていた。あれ、早いなあ。私も早く来たのに…。思わず緩む顔は、仕方ない。
「鉢屋くん!」
「やぁ」
「こんにちは。今日は早いんだね」
「まぁ、ちょっとな。あのさ、」
「ん?なに?」
鉢屋くんは、言葉を濁して何かを言おうとしているけど、なかなか出てこないみたいで黙ったままだった。何だろう…言いづらい事かな。まさか告白の返事とか…?ドキリとして、頭のどこかで止めておけ、と言っている自分が居たけど、緊張を誤魔化すために思わず喋り出してしまった。
「あ、ね、ねぇ。そう言えば、聞いたんだけど、鉢屋くん、不破くんと何でもお揃いなんだね。変装のためなんだろうけど、髪紐だけじゃなくて、着物もお揃いだって聞いて」
「、大木」
「何でも真似っこなんだね、不破くんの」
「黙れ」
その声の冷たさに、喉の奥が引き吊った。慌てて鉢屋くんの表情を見れば、鉢屋くんは怒っていた。やってしまったんだ。私は、言ってはいけない事を言ってしまったんだろうか。それとも鉢屋くんが話そうとしていたのを遮ったから?何が理由なのかよくわからなかった。
「ご、ごめんなさい…」
「ハッ、……何に謝っているんだ?」
「…それは、」
「大木は、いつも謝るよな。今のだってそうか?」
「ち、違う。今のは、私が何か悪いことをしたと思ったから、」
「だから、謝る理由なんてそんなもんなんだろう?そういう口先だけの謝罪、私は一番嫌いだ」
鉢屋くんは吐き捨てる様に言って、私に背を向けた。
「もう、会うのは止めよう。告白も、やはり断らせてもらう」
そして消えるように居なくなってしまった。頭が上手く付いていかなくて、言葉も体も何もかもがゼンマイが止まったみたいに動かない。だけど一つだけわかる事があった。
「鉢屋くんに、嫌われた」
嘘でしょ。
2013/07/26
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