「早かったな」
「あ、鉢屋くんこんにちは」
「こんにちは。体調は良いか?」
会うのを放課後にして貰えたので今日はすこぶる体調がいい。それを伝えれば鉢屋くんはそれはよかった、と笑ってくれた。目元を緩めたその笑顔にどきりとする。鉢屋くんの笑顔って言うと、不破くんの顔の下から滲み出た性格の様な笑い方しか知らなかった私にその笑顔は心臓に悪い。本当は今すぐその笑顔をリピートして床を転げ回りたい。部屋に戻ったらすぐにやろう。
「変な顔してるぞ」
「え、え、」
「ふ、また飛んでたか?」
「そ、そう…かも…」
かっこよすぎるからその笑い方をやめてくれ!!まともに見てられなくて目をそらした。顔はかろうじて赤くなってないはず…。いや、でも好きをもっとアピールしなくては意味がないのか?好きになった理由は言ったし、私の人となりも把握してるみたいだし。普段からよく意識飛ばしてることばれてたしな。
よ、よぉし。好きをアピールしよう。自己アピールは個性がないと面接官の目には止まらないんだ…何かないかな…。
「鉢屋くん」
「何だ?」
「私の特技を見て!」
「何だ?」
「しんべえのパパさんに南蛮の手品というものを教わったので、それをやります!手品っていうのは、透視のようなことをしたりする不思議な見世物です」
「わかった」
「ではちょっと準備をするのでお待ちください」
私は鉢屋くんから見えないように背を向け、懐からしんべえのパパさんに頂いたとらんぷと紙を取り出した。紙にさらさらと筆を走らせて、ドキドキしながら振り返る。
「お待たせしました、では、ここにたくさんのカードがあります。あなたはこの中から好きな一枚を選び、記号と数字を確認したらまた好きな場所に戻してください。私がそれを当てます。カードは私には見えないようにしてください」
鉢屋くんが頷いたので、私はとらんぷをきり、扇形に広げて差し出した。鉢屋くんは少し考えた後一枚抜き出すと確認して元に戻した。またとらんぷをきる。
「これであなたが入れたカードがどこにあるのか私にはわかりません。ですが、実はこのカード、南蛮から渡った不思議な力を秘めたものなんです。喋ることはできませんが、私に秘密を教えてくれます。私が指を鳴らすと、あなたが選んだカードは一番上まで登ってくるんです」
鉢屋くんはじっとカードに集中している。私はパチン、と指を鳴らした。
「あなたが選んだカードはこれですね?」
「………いや、違う」
鉢屋くんはニヤと笑って否定した。私が間違えたと思っているな。私はわざとらしく驚いた。
「違ってる!?そんな筈は……あ!すいません、間違えました。指を鳴らすと一番上まで登ってくるのはお客さんがやった時でした!私がしたときは正解のカードは…私の心に届くんです」
「は?」
私は不思議そうな鉢屋くんの視線を右手を上げてそちらに向けた。そしてその手を懐に入れてゆっくりとカードを取り出す。鉢屋くんはそれを見て驚いた顔をした。
「ハートの六…当たっている」
「ほらね?このカードは不思議な力を持ってるって言ったでしょう」
「あぁ、驚いたよ」
「実はね、まだあります。このカードは、お届け物もできるんです。鉢屋くん、あなたの心に何か届いていませんか?」
鉢屋くんは、よくわかってない顔をしながらも私がしたように懐を探って、目を見開いた。取り出したのは一枚の紙。私が一番最初に書いたもの。鉢屋くんはゆっくりとそれを開くと、文字を目で追って、優しい顔で笑った。何か恥ずかしくなってきたので逃げる事にする。
「以上!大木あきの特技でした!鉢屋くんまた明日ね!」
「…大木!」
振り返って、またあの笑顔。
「ありがとな!」
お礼を言われたのなんて初めてだ。少しだけ顔が赤くなった気がする。
『鉢屋くん、好きです。届きましたか?』
2013/07/25
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