「ん…はち、蜂が…逃げ……逃げて!!」

「うるさい」


巨大迷路の様な洞窟からやっと抜け出せて鉢屋くんと喜び手を取り合っていたら鉢屋くんの背後に大きな蜂が現れて…危なかった。夢だったか。いやしかし危なかった。
同室の友人が飛び起きた私を布団に沈め、額に手拭いを乗せてくれた。


「私始まる前に言ったじゃない。顔色悪いけど大丈夫?って。寝不足で倒れてるじゃない」

「え?顔があほみたいって言ったんじゃないの?」

「いや、あほなのは顔だけじゃないから。だから親指を立てられたのか…」


全く、と彼女は立ち上がった。そこでようやく気付いたけど、ここ自分の部屋じゃなくて保健室だ。


「どこいくの?そういえば試合どうなった?」

「ご飯貰ってきたげる。試合は三班の負けよ」

「え!私倒れたのに?」

「あきが倒れたからよ。ビックリして皆動きが止まった一瞬にあんたの事気遣いもせずに試合を続けた竹谷が討ち取って終了」

「お、おぉ…勝ったのに素直に喜べない…」


彼の意外な一面を見た気分だな…。友人が出ていった保健室は少しだけ薄暗い。昼八つぐらいかなぁ。彼女がここに居るってことはマラソンも終わった後だろうし。


「失礼します。…大木、飯食え」


保健室に入ってきたのは鉢屋くんだった。片手にお盆を持って、その上にはおにぎりと小さいうどんが乗っている。こんな姿も画になるねぇ、顔は、怒ってるみたいですけど…。


「ご飯なら今友人が」

「そこで会ったから、言っといた」

「あ、そう。じゃあいただきます…」


起き上がり、おにぎりを食べようと口を開けるも、鉢屋くんの視線が怖すぎて閉じた。


「食べないのか」

「食べます。食べますけどあんま見られるとちょっと…」

「…わかった」


出ていってしまうかもな、と思いながら言うと、鉢屋くんはくるっとその場で回って腰を降ろした。ここには居てくれるらしい。
いただきます、と小さく言ってからおにぎりにかじりついた。あ、梅おかか。センスいいね。


「大木」

「もい」

「さっき、聞いたぞ。お前、私と会うとき寝ずに待ってたらしいな」

「ぁごっ!」


おにぎりを食べながら聞いていたらとんでもない事を言われて思わず噛まずに呑み込んでしまった。ケホケホと咳き込む私に湯呑みを差し出してくれたのでありがたく受け取り流し込んだ。


「いや、あのそれはね、楽しみで寝てらんなくて…」

「あ?」

「すいません私朝弱いから起きれる自信なかったんです」

「…だったら、それを私に言えばいいじゃないか。別にあの時間にこだわる必要もない」

「そうだったの?」


てっきり、そこなら時間を作れるから合わせられるな?って意味だと思ったのに…。面接官鉢屋に試されているのかと思った。まぁ私が頑張ればいい話だったから時間を変えてもらうなんて考えもしなかった。言ったら変えてくれてたのかぁ。
鉢屋くんは恐い顔をしたままため息を吐いた。


「あのな、私は前にも言ったが、今は大木の事を知るための期間なんだ。お前がどういう性格で、どんな奴なのか知れないと付き合うも何もないぞ。現に今日倒れるまで朝が弱いなんて知らなかった」


確かに鉢屋くんの言う通りだ。本音を隠して取り繕ったって、それで付き合う事になったら絶対にボロが出る。今回はまぁ些細な事だけど、同じように自分の嫌いなものやダメなところを隠して見栄を張っていたってダメなんだ…。


「鉢屋くん」

「…ん」

「私、朝は弱いし、雨の日は髪の毛くるくるぱーで纏まらないので、時間を変えてもいいですか?雨天時は室内希望」

「…ふ、雨の日は、髪の毛くるくるぱーでなくても、室内だろう?わかった、じゃあ明日から放課後にしよう。大丈夫か?」

「うん!」


鉢屋くんは思わず笑った、って感じの笑い方をした。その笑顔が忘れられなくて、私はずっとドキドキしていた。







昼八つ=午後2時頃
2013/07/24

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