蝋燭の灯がすきま風でゆらゆらと揺れて、私と鉢屋くんの影も揺れた。
鉢屋くん、今なんて言った?


「は、鉢屋くん…」

「……何だ。野暮な事は、言うなよ」

「は、はい…。あの、でも」

「私は、大木の言葉をどこかで信じていなかった。大木に試すような事を聞いては自分を安心させようとしてたんだろうな。そんなだから、疑って、酷いことを言った。すまなかった」

「いえ、でも、あの、ちょっと」

「さっきから、何だ。人が謝って…冷たっ!」

「だから、言おうとしてたのに…」


慌てて離れた鉢屋くんは私を見てぎょっとした。鉢屋くんが喋っている間止まらなかった涙が結構制服を濡らしてしまった…。私の涙は一度出たら止まらないのだ。ていうか、あの鬼面接官の様な問答はそういう意図だったのか…。


「全く。ムードもないな」


まぁ、この泣き方ではなぁ。しばらく顔を見合わせて、どちらともなく笑った。ふと、鉢屋くんの視線が下がって、怪我のある頬を見つめた。


「その怪我、私の所為だな」

「え!?い…や、これは木にぶつかって、」

「あぁ、いい。聞いたんだ」

「え…?それは…は組の奴ら…?」

「いや、雷蔵が見てたんだ。落ち着け、あいつらは、あいつらなりに隠していたから。滝涙で苦無を構えるな」


あ、そうなんだ…。てっきりポロっと言ったかと思った。私は取り出した苦無を再び仕舞った。しかし、取り乱していて近いと感じたが、冷静になっても距離が近い。しかもさっき、片腕だけど、抱き締められたし。…。


「何だ?涙が止まったかと思ったら、沸騰したように赤くなって。今頃恥ずかしくなったのか」


だって、近いし…!小声になったが、もう少し離れてくださいと伝えると少し距離を開けてくれた。顔が見易くなった。さっきまでからかうような顔をしていたのに、また違う顔。


「その怪我は、残るようなら私が責任を取る」

「え!?いや、いやいや、これは、何て言うか、奴らを脅すためにわざと自分で殴られたから責任とかいいです」

「そうか」


あれ…、意外とあっさりだった。もうちょっとこう、いや私が、いやいや私が!みたいな問答が続くかと思った。…何寂しがっているんだ。責任を取るなんて縛ってしまいそうで怖いくせに。


「なぁ、知ってるか?」

「え…?」

「今日は大木の同室、両隣追っ払って他の部屋に泊まるらしいぞ?」

「!」


先程開けた距離が、少しずつ縮まっていく。正面に鉢屋くんのニヤリ顔。お、お似合いです…怖いくらい…。


「説得する時間は嫌と言うほどある。他にも何かできるかもしれないな?」

「は、はち、はちや、くん?」

「悪いが、私はしつこいぞ」


それは、追いかけられて、嫌と言うほど思い知らされました、が…。

暗転。蝋燭が消された。






「せいぜい、足掻いてみろ」










マイナスから浮上

End
2013/07/30

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