距離が近い。
鉢屋くんは天井から落とされて、その体勢のまま手枷をはめられたんだろう。身体はうつぶせで、右手で肘を付いて起きたまま固まっている。私も、布団に伏せて寝ていて、鉢屋くんの身体とは向かい合っている状態で顔が真正面にあった。慌てて飛び起きて後退ろうとしたが、手枷が邪魔をして腕の関節が変な音出した。痛い!


「な、何故長屋に…」


私の疲労は、限りなく限界だ。もう逃げる体力も精神力もなくて、何より手枷があって無理だ。距離を置くことも、逃げも隠れも出来ない。それに余計切迫する。ここ最近鉢屋くんから追いかけられるようになってから作っていた表情も上手くできなかった。あぁ、まずい。いやだ、恐い。思考がブレてまともに居られなくなってしまう。


「…やっと素になったな」

「え?何ですか?私は、いつだってこんな感じですけど。それより、この手枷、鉢屋くんならすぐ開けられるでしょう。窮屈だし、外してくれません?」

「大木、こっちを向け」

「い、いやです。それより早く、手枷を」


「大木」


鉢屋くんの左手が私の右腕を掴んで、力で体ごと鉢屋くんの方に向かされる。さすが忍たま…。気を抜いた一瞬に顔を見られてしまってバッと下に反らした。今のはダメだ、顔が作れてなかった。頭の中がぐちゃぐちゃで、怖くて、不安な顔を見られてしまった。何か言いたそうに呼吸が漏れるのを私は遮った。


「やめて、やだ。恐いです。もう近寄りません。鉢屋くんの事も何も言ってません。だから、何も言わないで。鉢屋くんだけでいいから手枷を外して、帰って」

「恐い?何が、恐いんだ。…大木、教えてくれ」


腕を掴んでいた手が、躊躇いがちに怪我のある頬を掬った。手枷がはめられた手は、ずっと握られたまま。

疲労がピークだった。体力も精神力も削がれて、寝ればましになるけど寝ることも出来なくて上手く仮面を被れない。何かにすがりたかった私は、鉢屋くんについポロリと本音を漏らした。




「傷付くのが、恐い。これ以上…嫌いに、なられたくない、」




あぁ、そんなに、ひどい顔だったの?私の顔を見た鉢屋くんの顔が、みるみる険しくなる。また俯こうとしたけど、それはできなかった。
鉢屋くんが、私を抱き締めたから。




「大木をもう、傷付けない。嫌いになんて、なるか。私はお前が好きなんだ」




左目から一粒、涙がこぼれた。





2013/07/29

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