「はぁ、はぁ…ただいま」


夜は更け、下級生たちはもう寝静まっている時間に、私はようやく部屋にたどり着いた。夕飯食いっぱぐれた…くそぉ。
最近の私と来たら、何だこの疲労感は。顔の怪我が治るまでは、校外実習もないし、普段より楽なはずなのに…理由はわかってるけど。先日会話してから鉢屋くんの追い掛ける勢いが衰えず、むしろ増した。何故だ。もう近寄りませんって宣言聞いてなかったのか?授業中以外は、ほぼ追いかけられている。相変わらず無言だし、気が付くと後ろにいて最早ホラーだ。
疲労がピークに来ている。本能で感じるレベルって、ヤバイのでは…。布団に倒れ込むと、「ほこりが立つ」…誰か私に優しくしてくれませんかね…。起き上がるのが面倒で、顔だけ向けて非難の視線を投げた。友人は天井を見上げて何か考えてて見ていなかった。こっち向いて。


「…ねぇ、あき。私が言ったこと覚えてる?まぁ、覚えてないだろうな」

「え…?何の事?」


友人の話が何を指しているのかわからない。それに、もう疲れたから頭を使いたくない…。


「鬼ごっこ実習の事。あんたが鉢屋のためにボッコボコにした日のご褒美が貰えなかったから…」


あぁ、あの日の実習かぁ…。確かに、実習が始まる前にこいつに脅されて、ビビって最後まで逃げ切ったんだよなぁ。あれは、何て言ってたかな…確か、………あ。



ガタッどさっ!ガッチャン、



「有限実行してこそ、くのたまですから?私、今日は両隣追っ払って他の部屋に泊まるから」


布団に突っ伏して考え込んでいた数秒だった。何もかもが素早すぎて付いていけず、ただ嫌な予想だけはハッキリとしていて、左手が自由に動かない。動かしたはずみで、指先が私ではない体温に触れた。


『手を抜いて捕まるなよ。鉢屋と鎖で繋ぐぞ』


今度は、私ではない体温に、左手を包まれた。


「…大木」

「は、はち…や…くん…」




私の左手と鉢屋くんの右手に、手枷がはめられていた。
く、くそったれ…!







2013/07/29

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