「昨日の喧嘩、僕ちょっと見たんだ。あの子大丈夫かなぁ」
昨日の実習は、先生を呼びに行って、そこから五年生を解散させるように言われたのでそのまま終わった。どうやら問題を起こしたのは、は組の私に因縁を付けてきた奴ららしい。まぁ結局はくのたまが突然怒り出して一方的に殴られてたらしいが。少しはいい気味だと思ってしまうのは、仕方ない。くのたまは、罰としてしばらく用具の貸し出し番をさせられると聞いた。
「大丈夫も何も、くのたまの一方的なものだったんだ。自業自得だろうさ」
「え…?三郎、聞いてないの?喧嘩の理由」
「理由?は組の奴らの捕まえ方がなってない、とかでくのたまが怒ったんだろう。勘右衛門がそう言っていたぞ」
「えぇ?それ、違うよ。いや、でも僕が見てたのが部分的だったのかなぁ…うーん、…」
「おーい、三郎、呼んでるぞ」
雷蔵が迷い出してすぐに、八が教室の入り口で叫んだ。雷蔵は一人で考え込んでて気付いてないので放って入り口まで行けば、八に「何か言われても気にするなよ?」と言われた。外に出てみてその意味がわかった。昨日の奴等だ。一人多いが。
「…何の用だ」
「…鉢屋、あー、その…昨日は悪かったよ」
「は?」
「いや、俺達も…その、考えたんだ。もし俺達が、何も知らない奴らに、は組の事馬鹿にされたらって。無神経だったよ」
「よく考えたら、鉢屋の回りの奴等って、性格いい奴ばっかだしな。お前の性格も悪くないだろう。って思って」
「だから、ごめん」
「お前も、苦労してるんだろ…?レッテルって、怖いもんな」
「あ、あぁ…」
突然の変わりように着いて行けず、生返事を返す。こいつらに何があったんだ…?よくわからないが、同情までされている。昨日は居なかった奴がそこで口を挟んだ。
「まぁ、考えたっていうか、実際に言われて気付いたんだけどな」
「それは…誰にだ?」
「え?あっ、いや、言われ…たような気がしたけど違うな!な!?」
「あ、あぁ、違うな!」
「…まぁ、いい。でもお前は昨日居なかっただろう。何でお前も謝るんだ」
「え?だからそれは昨日の実習で…」
「おいぃ!」
「何でもない!実習は、関係ないからな!!じゃあ、今後は仲良くしようぜ!さよならっ!!!」
バタバタと去っていく三人の後ろ姿を眺めていたら、教室から八が顔を出して「大丈夫か?」と聞かれたので会話の内容を簡潔に伝えた。
「それって、勘右衛門じゃないか?勘右衛門もその場に行ったんだろ?」
「あぁ、そうだな。勘右衛門なら、言いそうだし…後で礼を言っておくよ」
だけど、何をあんなに必死になって隠していたのだろうか?まぁ、変に因縁を付けられるよりはいいか。教室に戻り、眠る雷蔵は放っといて窓の外を見たら頭に包帯を巻いたくのたまが歩いていた。顔は見えないが、おそらく、昨日の喧嘩した奴だろう。用具倉庫に向かっているのだろうか。あんな顔に怪我を負って、大丈夫なのか。
「…そういえば、大木見なかったな」
昨日は、は組の奴等に絡まれて、腹の虫が治まらずじっとして居られずにいつもより早く待ち合わせ場所に行った。大木の顔を見れば、多少落ち着く気がして。大木が来るまでに気分を落ち着かせようとしたが、思ったよりも早くやって来たせいですぐに言葉がでなかった。
大木も、最初はあいつらの様に、私の事を、人を馬鹿にして嫌いだったと言っていた。そして違うと思うようになったのはつい最近だと。本当に、嫌いだった奴の事を好きになんてなるのだろうか?大木も心の中で、実はまだ、私にそういう部分があると思っているのではないか?そんな風に考えてしまい、どう言おうかと思っていたら私の言葉を待たずに喋りだした大木が言った一言に、冷水が胃を撫でた様な感覚がした。
『何でも真似っこなんだね、不破くんの』
結局は、大木も同じだったんだ。だから、断った。これでいいんだ。本当は、大木には悪くは思ってないと言ったが、好きになっていた。礼儀はきちんとしているし、人の話も聞く。まぁ、度々、意識を飛ばしていたが。私の事で喜んだり悲しんだりする彼女が可愛かった。だから、その分堪えた。
「…はっ、考え込んでたら寝てた。何を考えてたっけな…うーん、」
「三郎ー、今日の委員会は学園長の思い付きにより尾浜勘右衛門の一人でおつかいの段。になったのであった…マル」
「わかった。中止だな」
「冷たいなぁ…!」
「それより、は組の奴らに私の事庇ってくれたらしいな。ありがとう」
「え?何の事?」
「ん…?だから、あいつ等に、私の事を悪く言うなと言ってくれたんだろう…?」
「え??何の事??」
「あ、思い出した。それだよ、喧嘩の理由」
勘右衛門の反応が思ってたのと違って、顔を見合わせて眉間にシワを寄せていると雷蔵がポン、と手を叩いた。
「どういう事だ…?」
「僕も最初から居た訳じゃないから、全部はわからないけど。三郎を馬鹿にした事謝れ、自分達だって言われたら嫌でしょ、みたいな感じで怒ってたよ。でもあほのは組、とか言って煽っちゃって殴られて…慌てて先生呼びに行こうとしてその後はわからないけど」
「あぁー、やっぱりあの痣は殴られてたのか。殴りかかって避けられてその勢いのまま木に顔面からぶつかりました。とか言ってたけど」
「だが、何でくのたまが私を庇うんだ…」
それに何故殴られたのに嘘を吐いた?先生にわかれば、は組の奴らにも罰があっただろう。
しかし雷蔵の言葉で頭が真っ白になり何も考えられなくなった。
「だから、大木さんだよ?喧嘩したくのたま」
嘘だろ。
2013/07/28
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