「うーん…ピンと来たのにおかしいなぁ?」


あきは、伊作達より少し東の森の中を駆け回っていた。
学園長と伊作の話を盗み聞いておつかいの場所は分かっていたからこの森を抜けているのは間違いない。
しかし森と一口に行ってもその広さは計り知れない。それなのに『少し東』に居るのだからあきのピーンと来たも恐ろしいものがある。
ひょいひょいと木から木へ移動していたあきはハッとして大木から飛び降りた。


「こっこの足跡は…善法寺先輩!!」


そこには乾いた地面に草履の足跡が一つあった。
確かにその大木の下で先程まで伊作と留三郎が休息を取っていたのだが、しかしその足跡は何の特長もないただの跡だった。





「この乾いた地面に草が生い茂っている森の中…だのに数少ない土面に不自然に目立つほどの白い足跡!!忍者の癖に足跡残しちゃう!これぞ善法寺先輩の不運クオリティー!!きっと何か事件が起こっているに違いない!!!!先輩今あきがいきまーーーーーーすっっっ!!!!!!!」





誰が見ていたわけでもないが、解答するならばそれは正解だった。
伊作が持っていた石灰が溢れて、たまたま踏んでしまい気付かずに去ってしまったのだ。
あきの確信めいた勘は伊作が関わると結構当たる。



あきが駆け出してすぐ、こちらに一直線に向かってくる何かが居た。
手に苦無を握りすぐ反応できるようにしたまま駆ける。
だがすぐに現れた正体を確認するとあきは叫んだ。


「善法寺先輩!!!!!!と食満先輩!」

「別にいいけど感動の差よ。」

「あきじゃないか。どうしたんだい?」

「先輩が!危機な予感がしたのでお助けに来ました!大丈夫ですか!?!??怪我は!???!???!!!穴は?!?!!!?!!?!???!蜂は!????!!?!?!?!?!?」

「お、落ち着いて…怪我はないから。穴にもはまってない。蜂にも遭遇してないよ」



留三郎が隣で「さすが伊作の不運レーダー…」とか呟いていたが怖いのでスルーした。
あきが「あれ?おかしいな、ピンと来たのに…」とか言っているがその勘は当たっているけどやはり怖いのでスルーした。


「まっいいか!善法寺先輩がご無事なら!」


そう言ってあきは伊作の手をギュッと握った。
ニコニコと笑うあきは素直で可愛いと思う。
男として、先輩として守られる事に抵抗はあるが、自分の身を案じてくれるあきの好意は純粋に嬉しかった。
いつもは周りへの威嚇に落ち着かせる事に手いっぱいでその他を考える余裕はなかったが、面と向かって気持ちをぶつけられて
伊作は思わず照れた。


「…わぁ、」


伊作のポッと赤くなった顔を見てあきは目をキラキラとさせて見入った。
優しい笑顔や困った顔ならいつも見ているが、こんな表情は初めて見たのだ。
かっこいい、伊作に対して初めて思った感想だった。
伊作の顔がみるみる染まっていく。どうやら感想を口に出していたらしい。

因みにその隣で存在を忘れられるというプチ不運が起こっていた。


「そ、そろそろ行こうか、」

「あ、は、はい!もうおつかいは終わっているんですよね?帰りは私に付いて来てください!!」


ぎこちなく動き出した伊作にハッとしてあきは前方へ駆け出す。
そのまま歩みを進めながら顔だけ回してこちらを向いた。


「この森には野犬がたくさんいるんで善法寺先輩が咬まれたら大変ですから!」


へえ、と二人は聞いていたが、そこである事を思い出した。
そう言えば先程の男達は犬を二匹連れていなかったか?てっきりあいつらの猟犬で俺達を探させているんだと思い込んでいたが、よく思い返せば首輪もなかったし大事な戦力であるはずだが対峙した時に呼び寄せる素振りもなかった。
伊作と留三郎が休息を取っていた場所へ駆け着いた犬の、その後ろにこっそりと居なかったか?

伊作と留三郎は顔を見合わせて、周りを見た。


仲間を呼んだのかわからないが、ぐるっと野犬に囲まれていた。



「あっ!言ってる側から!!」


あきは背中からスッと取り出した――傘を野犬に向けた。
走りよってくる犬に勢いよく傘を開くと、ビクリと後ろへ飛び退いた。


「えへへっ犬撃退には傘がいいんです!」

「あっ!あき!!」


先に気付いた留三郎が叫ぶ。
あきの後ろから野犬が勢いよく飛び掛かっていた。振り向いて避ける時間はない、こちらから攻撃する時間も――。

伊作の叫びは咄嗟に出たもので、考えて言った言葉ではなかった。他意はない。






「あき!おすわり!!!!!」






他意はないが、潜在的に何か思っていたかもしれない。


あきは躊躇せず地面に膝を着いた。
そのお陰でギリギリ野犬は咬みつく事なく、あきの頭上を飛び越えたのだが。


「「……」」


一時、留三郎と伊作の二人が固まった。
なんとなく野犬も止まったように見えた。


「とっ!とにかく森を抜けるぞ!!南へ走れ!!!」


留三郎の言葉に三人は脱兎の如く野犬から逃げ出した。











「なぁ、伊」

「違うよ!!!!!!!!!!!!!」

「まだ何も言ってないだろ。」

「わかるよ!でも違うから!!!!しゃがんでって言いたかったんだ僕は!!!!だけど!!もう!!!」

「わ、わかった。わかったから深呼吸して落ち着け。」


留三郎は顔を真っ赤にして肩を怒らせる伊作を宥める。
さっきの言葉がショックだったらしい。
まだ忍術学園に入ったばかりの頃、先生を間違えてお母さんと呼んでしまったことがあった。俺じゃなくて文次郎だが。
その時の文次郎も今の伊作の様になっていたなぁと思い出した。
今度会計委員会の後輩達に教えといてやろう。


「善法寺先輩。」


振り替えるとニコニコ笑顔のあき。
伊作は声にならない声でごにょごにょと言っている。正反対の顔だなぁとどう展開するかぼんやり眺めているとあきがいい笑顔で言った。





「もっと命令してください!!」








(命令する善法寺先輩、漢らしいです!)
2013/07/08


back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -