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「伊作っ!!」
「手間取らせやがって…さぁその大事そうに持ってる風呂敷の中身をよこせ!」
そう言って刀を向けてくるのはおつかいの時通った戦場から逃げた雑兵らしい。
「おいっ!早くしないと切っちまうぞ!痛いぞぉ…」
「そうだぞ、痛いから俺達は逃げたんだからな」
「お前は余計なことを言うな!さぁよこせ!」
「ま、待って下さい。僕達はお金になるような物も食料も持っていませんよ」
「何言ってやがる。その風呂敷はなんだよ!」
「これは大事な預かりものですので渡すわけには…」
「そら見ろイイモン持ってるじゃねぇか!」
ニヤリと顔を見合わせて笑いあっている。
もともとあまり期待はしていなかったが話して分かる相手ではなさそうだ。
チラリと離れた留三郎を見ると目を合わせて頷いた。
「ではこれを…どうぞっ!!」
「うわあっ!?」
「な、何する!!!」
勢いよく敵に当たり粉末が舞う。
思わず目を瞑っているがそう、それがいい。
「あっそのまま!目は開けないで下さいね!失明してしまいますから!」
「えっ!?な、何しやがったああぁぁぁ!!?!」
伊作が投げたのは石灰を入れた包み。
刃傷には薬として使われるが、目の隔膜に入ってしまうと失明の可能性があるので少々危険。
まぁ説明しても聴こえてはないだろう、と素早くその場を離れた。
あの様子では追いかけてきたとしても逃げ切れるだろう。
この時二人はうっかりとあることを忘れていた。
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