私のご主人様




四年生になって暖かな陽気の日々が終わり、もうそろそろ梅雨に入ろうかという季節だった。

その日は朝から何だかそわそわと落ち着かなかった。
起床だっていつもならお腹が空くまで全く起きないのに、夜明け前に目が覚めたまま眠れなかった。
そのまま朝ごはん、授業、昼ごはん授業…
一日の終わりに近づいてきても、とにかく言いようの無い何かがこみ上げてきて不安だった。

皆が教室から出て行く中一人で座っていたら、私の横を通り過ぎたそうこちゃんが小さな声でこう言った。






「………よもぎ餅」






そーーーーれーーーーだーーーーーーー!!!!!!
よもぎの新芽が取れるのは梅雨に入るまで!!
間もなく梅雨入り!!!
食べ収めなくてはと腹がそわそわしてたんだねさすがそうこちゃん!いえそうこさん!!!!!!!!


そしてそこからそうこちゃんはもち米の準備、私はよもぎを摘んでくるという分担で素早く行動を開始した。
二手に分かれる前そうこちゃんに「先輩、たーくさん取れるまで帰ってきちゃだめですよ?」「やーだまかせて!籠に入りきらない程採って来てあげるから!」と会話したのは記憶に新しい。
のだが。


「な、何故なの…新芽が全然無いなんて……」


まさかの新芽閉店ガラガラ。私の心のシャッターもガラガラしたいわってバカ!!そんな阿呆な事一人で考えてる場合じゃないのよあき!!!
お、思い出せ…あのそうこの顔を!にこっと可愛く笑っていたが目は完全にアサシンそのものだったじゃない!
籠いっぱいどころか一本も持って帰れないなんてあの子が許してくれるわけが無い!


「お…終わりだ…これからそうこちゃんに見下されながら卒業するまで生活するなんて心が保てないぃ…」

「ねぇ、大丈夫…?」


裏山、裏裏山を駆けずり回って疲れ果てた私は門をくぐってすぐの場所でへたり込んでいた。
泣きながら声の方を向くと、保健委員長代理の善法寺先輩が…
とそれよりも驚くべきものが見えて声も出せぬまま目を見開いた。

先輩が背負ってる籠から…籠に入りきらないほどのよもぎだーーーーーーーーーーー!!!!!!!新芽だーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!

それから先輩はよもぎをどっちゃり私に抱えさせて去っていってしまった。
大変だったねって声も掛けてくださったし、何故私がよもぎの新芽を探していたって知っていたんだろう…?
とにかくその後るんるんで食堂へ行きそうこちゃんとおばちゃんと三人でおいしくよもぎ餅を食べ収めたのだ。
それからかな、もともと優しくて好きな先輩だったけど尊敬に変わったのは。





「というのが始まりだったわけ。」



その話を聞いていたのは三反田数馬と川西左近だった。
今日はその二人が保健室の当番で、ここが保健室だったからだ。
まだ此処に一年生が居れば事実は事実として伝わっていたかもしれない。


「「………」」


二人は顔を見合わせて、それからまたあきに向いた。数馬が口を開く。


「あの…あき先輩、」

「あーーーピンときた!!!!!!善法寺先輩が、呼んでる!気がする!!先輩いいいぃぃぃぃぃ……!!」

「あ……」

「行っちゃいましたね……あの、数馬先輩、」

「うん。多分…僕達低学年に教えるにはまだ早いような辛い体験をしたんだよ。そして善法寺先輩が支えてくださったんじゃないかな。僕達には有りのままを言うのは憚れるから…」

「優しい嘘を吐いてくれたんですね」

「そうだね…。あ、僕あき先輩が壊していった扉を直して貰うのに用具委員を探してくるね」

「はい。留守番してますね」





こうして真実は二度と世に出ることはなかったという。






2013/07/05


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