僕の忠犬
今では周りから僕の忠犬だなんて呼ばれているけど、ちょっと前まではあきだって普通にしていたんだよ?
まぁもちろん他の忍たまより懐いてくれてるかな、っていうのはあったけど。
そうだなぁ。あれは僕がまだ保健委員長代理になったばかりで…そうそう、五年生の梅雨前。あきは四年生だった。
僕は慣れない委員長代理業務に手こずっていたけど、それでも後輩を立派に育てなきゃって言うか…とにかくやる気にあふれてて、底を尽きそうな薬を作るために一人で裏山へ行ってきた帰りだった。
学園に入ってすぐしゃがみこんで泣いている女の子を見つけてね。
近づいてみたら何か呟きながら泣き続けてて、放っておくわけにもいかないし声を掛けたんだ。
ハッとして顔を上げたのは、まぁ、あきでさ。
どうしたの?って聞く前に両腕擦り傷だらけなのに気が付いてさ。
あぁこれで痛くて泣いてたんだなぁって、今思えばすぐに保健室に連れて行くべきだったのに女の子の泣き顔にどぎまぎしちゃって…
だから咄嗟に摘んできたありったけのよもぎ渡して去ったんだ。
「……で?」
「いや…終わりだよ?」
「はぁ?よもぎ渡しただけ?」
「う、うん。よもぎは傷に効くから…あ、大変だったね、とか言ったような言わなかったような…?」
「いや!そんなのはどうでもよく!それで今みたいになったって言うのかよ!?」
「うーん…多分。だってその次会ったときにはもう小平太に掴み掛かってたし」
あきが伊作に何故懐いたのかを聞いたら返ってきたのがコレだ。
そんな理由であんな忠誠を誓うような態度を取るか?いや取らないだろ。
こいつもどっか抜けてるところがあるからなぁ。
多分そんな事が理由じゃなくてそれまでにあきに善法寺節で優しくしてやったに違いない。
「留三郎、そろそろ」
「ああ。来るな」
俺と伊作は休憩していた大木の根から腰を上げるとすばやく木の上に登った。
直ぐに先ほどまで俺達が居た場所に猟犬が現れる。
続いて現れたのは戦逃れが二人。
「全く。戦場を抜けないと届けられないからって…そんなに湿布を送る必要があるのか?」
「でもよく効いただろう?」
まぁ、打ち身にもすこぶる効いたが。
とにかくこいつらをこのまま学園まで連れ帰る訳にはいかない。
「反撃でもするか」
善法寺節(おひとよしなまでに怪我が放っておけない病気)
2013/07/05
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