俺もお前もあなたのもの
「あっ先輩!こんにちは〜」
「うんうん。こんにちは保健委員会さん」
「僕たちこれから薬草園へ行くんです」
「善法寺先輩も後から来ますよ」
あきは善法寺伊作という人物を尊敬している。
それは他人の目から見れば崇拝ともとれる少々突進型の表現ではあるが、『尊敬』している。
そして善法寺伊作の大事なものは、あきにとっても大事なものになるのだ。
「あっ乱太郎。こないだはごめんね?怒鳴っちゃって」
「いっいいえ!」
「あの後先輩に怒られちゃったんだあー。後輩に優しくしなきゃだめだよって」
「あ、あはは…」
今日の優しい雰囲気のあきの姿を見て先日の鬼のような形相のあきの事を、
すっかり白昼夢的なふわふわしたものにしていた乱太郎は、あきの謝罪にすぐさま山田先生の言葉を思い出した。
「でも二度目がないのは本気だからね?」
くのたまのあきは六年は組の善法寺伊作の不運が関わるとチンピラの様になるから気をつけるように、と。
先輩を迎えに行って来るね、と走っていく背中を見て乱太郎は空笑いした。
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「七松クラアァァァ!!!!!」
「先輩!忘れてるぞ先輩!」
伊作がバレーボール片手に穴から頭を出したときには事が起こった後だった。
「七松先輩!心配して見に来てみればすぐこれだわ!善法寺先輩が近くに居たら!吸い込んじゃうから!!やめてって言ってるじゃないですかこの運動馬鹿が!!!」
「出てる!滲み出てるから!本音!!」
必死にツッコミを入れていた食満が穴から顔を出した伊作に気付き手を差し出す。
「いたた…」
「伊作、大丈夫か」
「うん、平気平気」
「いや、あいつがな…」
「ああ…、あれは大丈夫じゃないね、こーら!」
「善法寺先輩ィィィィィ!すみませんでしたでも私は先輩のお体が心配で!この人間兵器が災厄を振り撒かなければ!この人間兵器が!!」
「か、仮にも僕の友人だから…」
そうでしたっけ、と返すあきに伊作はガックリと項垂れた。
小平太はと言うとあきの怒声をぽかんとした顔で見つめているだけ。
ああ…あれは呆けているんじゃなくて、何とも感じていない顔だ。
それを知ればこの少女の怒りは火に油を注ぐようなものだなぁとあきを見ると両手で顔を覆っていた。
「すいませんでしたク七松先輩…」
「いまクソ松って言いかけなかったか?」
「やだなぁ…反省してますよ?」
「何か上からだな…」
「僕にもそう聞こえるよ」
しかし小平太はそんな態度を気にする様子も無くまあいっか!と笑う。
豪快な所が彼のいい所だ。これが文次郎だったらここから第2ラウンドのゴングが鳴っていたと思う。
「お詫びになるかわかりませんが…センパイ!バレーお付き合いします!!本気でお願いします!!!」
「よしわかった!どんどーん!!」
この様子を見ていた二人は思う。
ああ…今度は何考えてんだよ……
「わははバカめ全部演技だよーん!クソ松コノヤロォォォォォ!!グーパンでカウンターしてやる!!今日こそ思い知れ善法寺先輩の不運んんんんんんん!!!」
あっああぁぁぁああああぁぁああぁあああ!!!!
それは誰の声だったか。
「大変だー!!保健委員緊急出動ーーーー!!!
くのたまが七松先輩のアタックをグーパンでカウンターしようとして球威に押されて自分の顔にグーパン!後に凄まじい勢いでバレーボール破裂!!!故に失神!!!!!」
ちなみにいたずらでバレーボールに火薬を仕込んで大規模クレーターを拝もうとしていた笹山平太夫の叫び声だった。
あきの長ったらしい台詞の間中叫んでいた。
「なんか…ごめんね?小平太」
「ん?何が?」
「いや、いっつもあきがさ…一応僕の事思ってしてくれてるから僕にも責任あるし…」
「なーんだ!全然気にしてないぞ?あいつは遊んでておもしろいからなー!起きたらまた遊ぼうって伝えてくれ!」
(日常茶飯事です)
2013/07/05
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