その日は休日で、伊作は薬に必要な薬草で、学園の周りには生えていないものを取りに行くために裏裏山の川辺までやって来た。
あきにはまだ会えていない。
どうやら食堂にも顔を出していないようで、聞けば保存食のよもぎ餅を後輩に分けてもらってくのたまの庭で焼いて食べているらしい。
くのたま敷地に特攻するわけにもいかないし、聞く限りでは元気そうにしているので伊作は暫く様子を見ることにした。

腹痛に効く薬草が群れて生えている原っぱに着くと、背負っていた籠を下に降ろす。ふと視界の隅に陰が動いてそちらを見た。遠くに人影が見える。
しゃがんでいるそれはよくよく見覚えのあるものだった。

そう、いつも僕を守ろうと必死になる後ろ姿と一緒で。


「あき」

「……先輩?」


振り返ったあきにいつもの満面の笑顔はなく、どこか憂いを帯びているよ


「善法寺先輩いいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」


うに見えたけど違ったな。いつも通りだ。

あきは全速力で駆けてくると勢いをそのままに喋る。


「さすがですね!いや私先日四年の綾部喜八郎に言われましてね、私には確固たる先輩の所有物としての必要性がないと気付いたんですよね!
やはり人間ギブアンドテイクですものね!私は先輩にいただいてばかりいるのにこちらから先輩に差し上げられるものは無いだなんて捨て置かれても仕方ない。でもそれは嫌なので先輩のお役に立つために薬草の生えているスポットを探して回っていたんですよもし急に必要になっても私に聞けばモーマンタイ!!ってかっこよくね?側に置くだけでは飽きたらず頭なでなでしちゃうんじゃね?
でも私薬草全然わからないんでまず薬草を覚えるところからだったんでとっても大変だったんですけどね
いやしかし私が見つけたスポットを先輩も知っているとはさすがというか!あっでももしかしたらうっかり忘れちゃう事もありますもんね私も覚えていれば安心ですよね!?」


そこまで一息に喋ったあきは酸欠で倒れた。







「君は久しぶりに会ったと思ったら…まぁ相変わらずで安心したよ。」


川で手拭いを濡らしてきた伊作はあきの頭に置いてやった。「頭が…!今ので爆発して覚えたこと忘れそう!!先輩!!!」とぼやいたからだが。
あきは寝転んだまま、お陰さまで…とか言っている。本当にこの子わかってない。
やっぱり文句の一つでも言ってやろうかと顔をあきに向けると、あきもこっちを見ていた。


「先輩…私のことどう思われていますか?」


不安そうな瞳で聞いてくるから、そこでようやくさっき一瞬彼女の顔に浮かんだ色も見間違いではなかったのだと気付く。
ああもうこの子は。


「いいかい、僕は皆が言うみたいにあきの事を忠犬だなんて思ってないよ。でも勘違いしないで!信頼はしてるし、いつも助けて貰って感謝しているよ。だけど、僕も男だから、守られるだけっていうのはちょっと…。だから、たまにはあきの事守らせてよ。」

「えっ…と…あの……」

「あぁ、質問の答えになってないかな…守りたい子だって思ってるって事。わかる?」

「え…?善法寺先輩が私を…?でも私も守りたいので、その場合どうすれば…?!」

「もう!!恥ずかしい事言ったのにやっぱり伝わってない!!!あきは特別って事!!」

「と、とくべつ…」


あきの顔色がみるみる内によくなっていく。
もう、いいよ。元に戻るんなら…。言ってる内に段々色付いていた伊作の恋心はしぼんだ。



「で、ではあきが一生をかけて善法寺先輩をお守りします!!!!」






でも、もう一度開くかもしれない。







end
2013/07/18


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