待てがてきません







あきには嫌いな人物が居る。
七松小平太ではない。彼は伊作の不運を倍増させるブースターになっているので警戒はしているが、周りと自分のそもそもの違いを理解していないので自分ベクトルで動いてしまうが仲間や後輩思いのいい人だと知っているから嫌っているわけではない。馬鹿にはしているけど。
とにかくそれ以外で一人いるのだ。そう、突然現れて、伊作の隣に当たり前のように居座る――


「雑渡昆奈門んんんんんん!!!!また現れやがってゴキブリめぇぇぇええぇぇえ!!」

「やぁあきちゃんこんにちは。いい天気だねぇ。」

「おっ落ち着けぇぇぇ!!組頭!!!自分で防御してくださいよ!!」


雑渡に向かって飛び掛り振り下ろされた苦無を諸泉が間に入り受け止める。
それを止めに入ろうと立ち上がったが、足がもつれてこけそうになる伊作を素早く身を引いてあきが受け止めた。視線は雑渡を睨みつけたまま。


「うん、いつも通りで安心したよ。」





いつもの光景であった。





「いつも言ってるけど、一応客人なんだから。」

「でも…あいつは曲者ですよぅ…。」

「あれ?そうか……」


これまたいつもの伊作からの説教に身体を縮ませているあきの言葉に二人で昆奈門を見やる。
スッと懐から饅頭を取り出して一年生が声を揃えてお礼を言っていた。


「もう…。何でそんなにあの人が嫌いなんだい?」

「それは…」


あきは自分が関わるととんでもなく豹変したりもするが、どれそれにも彼女なりの言い分があったはずだ。
だが雑渡昆奈門は伊作に害をなすことも特にないし、忍術学園に忍び込んではいるが(あまりに溶け込んでいるので忘れていたが)こうやって保健室で伏木蔵を膝に乗せてお茶を飲んでいる姿のどこに敵対しているのか伊作は疑問だった。


「それは……その、いや、なんでも、」


めずらしく言葉を濁すあきにどうしたものかとこめかみに手を当てる。
正座で向き合いうんうん唸っている二人に昆奈門が抑揚のない声を上げた。



「あぁ。伊作君、私が答えよう。彼女は君を私に取られたと思って寂しいのさ。いつも自分が守って陣取って見守って来たスペースに君がホイホイと怪しい奴を置くものだから。あきちゃん、君もそんな奴の隣に気を抜いて座らないでください、と伊作君に直接言えばいいじゃない。そうすれば君も毎度毎度お説教を貰わなくて済むだろう」



に、と最後の言葉は保健室の外から聞こえた。
昆奈門の座っていた場所には手裏剣が並んで刺さっている。
伏木蔵は昆奈門が素早く降ろして刺さった手裏剣の隣に座っていた。「すっごいスリルぅ〜…」テンプレが聞こえる。





「雑渡昆奈門んんんんんん!!!!!!!待てやあああぁぁぁ!!!!!今日こそ!!!今日こそはもう許さん!!!!テメーの口縫い付けて二度と喋れない様にしてやるあああぁぁぁぁーーーー!!!!!!」








「で、伊作君。」

「「わあっ!!」」

「雑渡さん。」


突然沸いて出た昆奈門に一年生がひっくり返った。
あきは暫くここには戻ってこないだろう。
保健室を出て行くあきの顔は真っ赤だったから。貴重なものを見た。意外と可愛いと思ってしまった。とは伊作の心の声。


「君、あの子いらないならタソガレドキに頂戴よ。」

「えっ!?」

「動きも悪くないし、君への忠誠っぷりは見事だからね。」


あの子はくの一に向いてるよ、と昆奈門は目を細めた。笑っているのか、試されているのかよくわからない。


「無理ですよ、あきは私にしか懐きませんから。」

「そうか。ではまた聞きに来よう。気が変わるかもしれないし。」


じゃ、と言って消えた昆奈門の姿を一年生が縁側に出て探す。
今まで考えたこともなかったが、あきはいつか自分ではなく他の誰かの為に動くことはあるのだろうか。
いや、なくはないな、結婚したりしたらそれこそ夫となる人に自分に向けているもの全て向けそうだし。



「そう考えると…ちょっとイヤかな、」



一人になった保健室で伊作は呟いた。
あとであきに会ったら心配してくれてありがとうと伝えてみようと思った。
純粋に彼女の喜ぶ顔が見たい、と伊作は思う。







2013/07/12


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