「誰かこいつと付き合うのを前提に友達になってくれないか」
へ、へいちゃん…!!!
☆2
皆さんお元気でしょうか。私は自分で言うのも何ですが全く元気じゃありません。何故かって?それはね…
もちろん兵ちゃんのすっとこどっこいが原因だよ!!
「え?何で急にそうなったんだよ。彼氏欲しいだけ?」
「ハチ、もうちょっと言い方があるだろ!兵助も、話の要点だけ伝えるんじゃなくてちゃんと説明してよ。大木さん、クラスは一緒だけど話すのは初めてだよね。とりあえず座る?でも兵助の隣の方がいいかな…うーん」
「雷蔵、私メロンソーダ飲みたい」
「自分で取りに行けよ…三郎が廊下側じゃないか」
「あっ俺はコーラ飲みたい。ハチ取ってきて」
「なんでだよ」
「…皆、話を聞いてるか?」
突然連れて行かれた駅前のファミレスには私のクラスメイトであり兵ちゃんのゆかいな仲間達(心のあだ名)が揃っていた訳だが着いて早々冒頭の台詞を吐いた兵ちゃんに一時止まった空気が動き出す。
て言うか私、振られたのつい今さっきの話なんですけど!!!
兵ちゃんの決めたら即行動派な所、凄く恐ろしいんですけど!!!!
先程の告白の後、兵ちゃんは呆然と立ち尽くす私を何も説明もなしにここへ連れてきたのだった。兵ちゃんの性格を考えればこの位予想できるけど…動揺しすぎて油断してた…。
「で、どうしたの?」
「あきが恋する様に応援してやりたいんだ。だから誰かこいつと仲良くしてやってくれないか」
「別にいいけどさ、何でそんな突然?大木失恋したのか?」
「!(グサッ)」
「ハ、ハチ…そんな事ずけずけ聞くような奴だからお前はモテないんだよ!」
「なっ、なんだよ…」
竹谷君の言葉に脳天から貫かれていると、さすがに罪悪感が沸いたのか尾浜がフォローを入れていた。言っておくけど感謝はしないからな…元凶はお前なんだから。
こんな会話をしてて兵ちゃんは動揺しないのかな…ちらりと見ればいつもの涼しい顔をした横顔で改めて私は何の爪痕も残せなかったと感じる。私は一体ここで何をしてるんだろうか…。好きな人に告白して取り消した上に自分から諦めます宣言して快く応援されてしまった上友達を紹介されようとしている。あれ?私馬鹿なのか。はぁと溜め息を吐くと不破君が気遣わしげに笑いかけた。
「えーっと…大木さんは本当にそれでいいのかな?」
不破君のそれに答えるなら即答でNOだと言いたい位だけど。胸ぐらつかんで脳みそ揺れるほど振り回してNOだと言いたい位だけども。
でも、でも…
兵ちゃんに決めた事すぐ覆すような意志が弱いブレる女だと思われたくないし兵ちゃんがこんなに私のために一生懸命数少ない友達を紹介してくれてる訳だしむげに出来る訳がないよーーーーー!!!!!わーん兵ちゃん!こんなに嬉しい事ないのに最低最悪だよ!!!コンチキショウ!
「はは…うん。よろしくお願いします」
「そっか」
そんな思いを込めて力なく笑って言えばそれでも不破君はまだ心配そうに笑っていた。何か見た目通り良い人だな…。ボーッと見つめていると尾浜が顔をずいっと寄せてくる。チッ、これが嫉妬を憶えた兵ちゃんが割り込んで来たとかならいいのに…。
「で、大木さんは誰がいいの?ハチとか?」
「おっ俺かよ!?」
「うーん。ハチは明るいし面白いし元気だしバカの一つ覚えみたいに真っ直ぐだしバカ正直な所がたまにキズで友達以上に見られない事は多いけど、いい奴だし」
「それ…褒めてるか?」
「褒めてる褒めてる」
尾浜の言葉に顔をカッと赤くさせてオーバーに仰け反った竹谷君は次の瞬間には真っ青になって落ち込んでいた。竹谷君ね、まあ、素直そうだし悪い人ではないよね。ただ付き合うってなると、ないな。申し訳ないが。この中なら私は…って私も何選ぼうとしてるんだ。傷・心・中!!今!今フられたの!!!だから新しい恋をして傷を癒やすとかそんな事は…って別に正論じゃん。え、これ失恋を忘れるフラグ立ってる?
「三郎、仲良くしてやってくれないか」
肩をポンと叩かれ、と言うよりむしろダンッと手を振り下ろされ兵ちゃんがハッキリとそう言った。すげぇ痛い。不破君と尾浜と竹谷君がほけっとした顔で兵ちゃんを見ている。ちなみに鉢屋君は我関せずでゲームしっぱなし。
「兵助、何で三郎なの?」
「この中でこいつの好きそうなのは三郎だと思って」
「へぇー。大木そうなのか?」
「え!?い、いや、…ははは!」
「図星っぽいな」
「幼なじみなんだからその位わかる」
皆に注目されて顔に熱が集まる。く、くそう!確かにそうさ!顔も(喋ったことないけど恐らく)性格もこの中じゃダントツタイプだよ!見てよ!完全に浮いてる彼を!!私は昔っからそう言う、放っとくとぼっちになる雰囲気の奴が好きなんだよ!!よりによって散々思い描いてきた兵ちゃんに言われたい素敵な幼なじみ台詞をこんな状況で聞くなんて…!
「それで、三郎はどうなの?」
心の中で頭を抱えていると尾浜が鉢屋君に質問を投げかけた。皆の視線が集まると、ここへ来てから一度も止める事の無かったゲームを閉じた鉢屋君が顔を上げる。あ、初めて目が合った。無表情な彼の口角がゆっくりと上がっていった。
「いいだろう」
……あ、ちゃんと聞いてたんですね…。
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