今日の放課後、兵ちゃんの部活はない。玄関ホールを出た兵ちゃんの後ろ姿を下駄箱の陰から覗き見る。よし、久々知兵助単独行動確認!まぁいつもぼっち帰宅だけど!

大きく深呼吸をして鼓動を落ち着かせる。そしてそのまま尾浜との会話を遡って思い返していた。


「魔法の言葉教えてあげようか?」

「ま、ほう……?尾浜…キモイ…」

「そこはノって欲しいな!大好きな兵助を振り向かせたいんでしょ!教えて欲しくないのかな?!」

「尾浜先生オナシャス!」


さっと生徒手帳とボールペンを取り出してメモの姿勢を取ると尾浜はオホンッと咳払いをした。


「大木さんはさ、いつも押せ押せすぎるんだよ」

「そ、そんな事ないよ!帰れって言われたら大人しく帰るし!」

「いや…そういう点では忠犬並みなんだけど…恋の駆け引きとして引いたりしないと」

「え…私がやってたのって恋の駆け引きじゃなかったの……?」

「…………とにかく、そんな大木さんが言うべき台詞はね」

「おい!先に教えてくれ!!!」


完全に聞き分けの良い女アピールとして言う事聞いてたのに…まさか下僕アピールにしかなってなかったなんて。私が今まで必死に積み上げた経歴がパアだよ…。余計な部分まで思い返していると下駄箱が大きな音を立てて揺れる。気になって見れば尾浜が肩で息をしながら立っていた。


「大木さん!よかった、まだ居て!」

「尾浜何用だ」

「その様子ならまだ言ってないみたいだね。良かった〜!」

「忘れてた!尾浜ありがとう!」

「さっきの言葉やっぱり兵助には止めといた方が…ってああっ!」


尾浜の言葉にハッとして兵ちゃんを捜すと米粒大になった後ろ姿が見えた。兵ちゃん歩くの速いから!!!後ろで尾浜が何か叫んでいたけど振り返らずに真っ直ぐ走る。先生の言葉は有り難く使わせて頂きますッ!!バタバタと走る足音に気付いた兵ちゃんが振り返った。私は大きく息を吸い込んで名前を呼ぶ。


「へ、兵助!」

「あき」

「あっあのね…」


尾浜は嫌いだ。だけど尾浜の女子人気は不動だ。きっとあいつの言葉に間違いはない!


「私、兵助の事好きでいるのやめる事にしたの」


ちらりと視線を向けると兵ちゃんは少し目を見開いていた。お、おお…?


「今まで兵助だけ見てきたから気付かなかっただけで、本当はすぐ身近に運命の人が居るかもしれないでしょ?」


兵ちゃん驚いてるのかな?!黙ってじっと私を見つめる兵ちゃんに手応えを感じながら私は数歩進んで兵ちゃんを追い抜かすとくるっと振り返った。


「だから…今までありがとう」

「……あき…」


き…決まったよね今ーーー!!?!?鳥肌立った!!思わず調子に乗ってクサい感じの動きしちゃったけど何かそれもしっくり来てたよね!!心の中で大騒ぎさせていると兵ちゃんが何か言いたそうに口を開いた。


「あき」

「…なに?」


キッキターーー!!!これでようやく兵ちゃんも私と同じ土俵に


「分かった。俺から言おうと思ってたから、むしろ調度良かった」


立っ…………………………………


あれ?


「へ、兵助…?」

「俺の友達を紹介してやる。応援するから恋しろ」

 
「あちゃー…だから止めたのに」


後ろからやって来た尾浜の呆れた声と、目の前の仁王立ちでこくりと頷く兵ちゃんに挟まれながら私は状況を把握した。



「う…嘘だーーーー!!!!!」



こうして私の長い初恋は終わりを迎えたのでした。


完。



…ってなるかボケーーー!!!!



 
一章・完
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