ふふふ…世界ってこんなにキラキラしてたんだ!今なら何でも許せる気分だよ!あー誰かに聞いてほしい!!兵ちゃんと私のこのキラキラの世界を!!


「いや、大木さんバカでしょ」

「え?」


目の前で呆れ顔で頬杖を付く尾浜を見る。何て言ったんだ?幸せすぎて聞こえなかった。いや、でも、ムカつく事言われたのだけわかる。やっぱり誰でもいいから聞いて貰おうって尾浜を選んだのは間違いだったな。


「何て?」

「あのね、それ兵助にいいように言いくるめられただけだからね。何で結果告白したのに今まで通りに戻って喜んでるの。君達お付き合いしてた訳じゃないでしょー」

「だ…だって兵助も私の事好きって言ってくれたし!?」

「言っとくけど、それどうせ心の中で、人としては、とか付け加えてるからね。ちゃんとラブの方か確認した?してないよねー。浮かれて告白取り消しちゃってるんだから」

「そっ!……!!」


く、

悔 し い け ど 言 い 返 せ な い !

あれ、尾浜の言う通りじゃん…。私何をしてたんだ。言われてみれば兵ちゃんが高級豆腐を眺める視線よりも冷え切った目で好きだって言ってたな…うかれすぎて気付かなかった…。それに今は私の事好きじゃなくてもちょっとずつそういう風に見て貰うようお願いすれば良かったじゃん。何で今まで通りの元サヤに収まっちゃったんだ…これじゃ完全に


「ムダ骨だったねぇ」

「む…」

「む だ ぼ ね」


む だ  ぼ ね

あ然と尾浜の言葉を心の中で復唱していると机に頬杖を付いた尾浜が首を傾げて笑う。


「魔法の言葉教えてあげようか?」




 





「あ、兵助ー」


教室に向かう廊下で声を掛けられて振り向けば何故か勘右衛門があきの席から手を振っていた。


「どうしたんだ」

「いやぁちょっと、出張相談?」

「出張相談…」


ここに座っていると言う事はあきの相談にでも乗ったんだろう。二人は仲が良いからな。勘右衛門が思い出した様に声を押し殺して笑うので首を傾げた。


「何だ?」

「いやぁ、告白を白紙に戻しちゃうなんて本当に兵助と大木さんには笑わせて貰うよ」

「………」

「大木さんすっごい浮かれてたよ?まぁ、俺が上手くかわされただけだって教えたら目が点になってたけど」

「……勘右衛門」

「おっと。俺は相談してくれた大木さんの味方しただけだよー?」


眉を寄せて睨むと勘右衛門は両手を上げて怖くもなさそうに怖い怖いとつぶやく。過ぎた事に怒っても仕方がないがこの後吠えるように纏わりつくあきを想像すると…。深く溜め息を吐いた俺に勘右衛門は身を乗り出して首を傾げた。


「兵助はいっつも女の子から逃げてばっかりだよねぇ。たまには向き合ってみたらいいのに。ほら、今回は大事な幼なじみだしさ」

「……どうすればいいか分からないからこうしてるんだろ」


付き合うって何を変えろと言うんだろう。俺は今の生活に不満もないし十分楽しんでる。それなのに無理にまで
それを加える必要があるか?理解する必要があるか?そんな事悩むなら勉強に費やした方がよっぽど時間の無駄にならないとすら思う。
それに加えてあきだぞ。俺には分かる。あいつを振れば大げさな程に距離を置く。目が合おうものなら泣いて逃げる。なんなら名字呼びと敬語まで想像が付く。俺は今のままで十分なんだ。そういう変化は正直、面倒だとしか思えない。


「ふーん、そっかぁ」

「もう、いいだろ。それより次移動あるから早く来い」

「大木さんが他の人を好きになるって考えた事ある?」

「は?」

「本当に何とも思わない?どうしようもなくぎゅってしたくなる、時とか」


やけに真剣な顔をした勘右衛門が言う。あきが俺以外を好きに?ふっと過ぎるのは嬉しそうに走り寄ってくるあきの表情。物心付いた時にはそれが当たり前だった。それが他の誰かに向くとすれば、俺は……。


「いや、全然思わないよ。むしろそうなってくれると助かるな」


そうか。今まで思い付きもしなかったけどあきが他の奴を好きになれば俺への負担が減るな。次会ったらあきに言ってみようか。しかし勘右衛門は俺とは発想が全然違うな…だから付き合っていて面白いんだが。

後ろでぼそりと呟いた勘右衛門の言葉は上手く聞き取れなかった。



「…やべっ、失敗しちゃった」



 
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