燃え尽きたよ…真っ白にな……。



「大木さーん脱け殻みたいになっちゃってどうしたの?」

「……出たな、オハマ虫…」


廊下窓際の席で窓枠に頭を預けて天井を見つめていたら、視界いっぱいに嫌な奴のドアップが現れた。

高校入学と同時に兵ちゃんの隣や笑顔や休日…とにかく諸々私から奪って行ったこやつを私は恨んでいる。でも今日は睨む気にもなれずにその体勢のまま目を虚ろにさせれば大きな目をぱちぱちと瞬かせた。
こいつの目、キライ…。兵ちゃんも尾浜もじっと見つめる癖があるけど、尾浜は何かぶん殴りたくなる。恐らく生理的に受け付けていません。


「あらら、本当に何かあったの?兵助と」

「フンッ!!!」

「あ、あっぶないなぁ〜…辞書振り回すなんて本当とんでもない子だよ」

「そう仕向けてるのはそっちだろ!アアン!!?」


さっと交わした尾浜を起き上がって睨めば全く思ってなさそうな声でコワイコワイと言っている。気 に 食 わ な い 奴 !

 
「まぁまぁ落ち着いて。どうせ兵助にド天然に無神経な事言われて傷付いてテンション下がってんでしょ」

「!?」

「あ 図星だ」

「ど…どうして解って欲しい兵助じゃなくてあんたに理解されなきゃならんっ!!来い、尾浜…神経一本切ってあげるから。ねっ」

「あはは…落ち着きなさいって!あとそのハサミは何かナ!?」


青ざめた尾浜に少し落ち着いた私はため息を吐きながらハサミを筆箱に戻した。悔しいけど尾浜は理解力の塊だ。だから小難しいと周りから思われてるけど実際意外と単純。だけど懐に入れる人の選別はかなり厳しい。な兵ちゃんだってあんなに懐いてるし…。
高校に入るまで殆どを家と学校の往復に費やしていた兵ちゃんは今では尾浜の影響でオールで遊び明かす事まで覚えてしまった。そう言えばそこに女子も呼んでいると聞いてからだったな、尾浜の事嫌いになったの…最初は純粋に友達が出来てよかったと喜んでいたのを何となく思い出す。だけど尾浜と出会ってから兵ちゃんが明るくなったのも事実なんだよなぁ…。


「私が男だったらこんなに悩まないのに…」

「え?」

「そして尾浜、お前なんかに兵助の親友ポジを譲ったりしなかったのに…!」

「うーん。今日はやさぐれてるなぁ」


威嚇する様に睨んでいるとふと尾浜が廊下の向こうに視線を送る。つーかまだここに居るつもりなのかい?さっさとどこへでも行って欲しい。くるっと再びこっちを向いた尾浜はじっとまん丸い目で見つめてくる。見るな。目玉取るぞ。


「ねぇ、大木さんさぁ」

「なに」

「いっそ振り切る為に俺と遊んでみよっか」

「…はぇ?」

「あ、その顔かわいー。じゃあ決まりって事で」

「は…ハァ?ちょっと、」


「そゆ事で、お前の幼なじみ貰っちゃうね」


え?

今…


こいつ何て言った?



私の方じゃない、廊下を向いてにこやかにそう告げた尾浜は私の首に腕を巻き付けてぐいっと引っ張る。呆けてされるがまま首だけ出した廊下で見えたのは立ち尽くす兵ちゃんだった。

……NOーーー!!!


「へ、兵す……わっ!?」

「勘右衛門」


名前を呼び終える前にこっちに向かってきた兵ちゃんは、べりっと尾浜から私を引き剥がすと私に背中を向けて立った。な、何がどうなってるんだ。まさか…兵ちゃんが妬いてくれたとか!?尾浜如きに私が取られると思って…!ってナイな。私よしっかりしろ。目を覚ませ。

でも何かこれ守られてない!?守られてないーーー!!?!??

目の前の背中に欲望のまま抱きつきたい衝動を抑え込みつつ兵ちゃんの言葉を待っていると、尾浜がニタリと笑った。あ、悪役だ。悪者の顔だ。


「兵助どうしたの?」

「こいつはよせ」

「えー、何で?だって兵助、大木さんいい子だって言ってたじゃん。兵助のお墨付きなら間違いないよー」

「そう言う事じゃなくて」

「じゃあどういう事?許可がいるの?いらないよねぇ、兵助の彼女でもないし」

「………」


お、尾浜ーーー!図星突かれて兵ちゃん言い返せなくなっちゃったよ!!何兵ちゃんで遊んでやがるこの子は!!でもせっかく妬きもちの様に聞いて取れる発言をしてる兵ちゃんをみすみす止めたくない!もうちょっと浸っていたい!!!わ、私は…私はどうしたらあああ…!
グググ、と歯を食いしばるとガタンッと勢いよく立ち上がった。


「ちょ…、お、尾浜!まず私はあんたの物になるつもりなんてないからね!」

「えー、そう言う事言っちゃう?」

「言うわボケエ!誰がお前なんぞ!死に瀕した吸血鬼だったとしても尾浜の首だけは噛まないっつう!!」

「うん。その例えの悪さよ」


結局兵ちゃんをフォローしてしまった。まぁどうせ言葉続くとしてもあきは俺の物だから駄目だ!なんて言葉は絶対に出て来ないだろうしね…期待の芽は早々にちょん切っておかないと上げて落とされるのは私なのさ。チョキチョキ。誰かハンカチ貸してください。


「あきは…」

「んえぃ?」


エアハサミで期待の芽を詰んでいたらずっと黙り込んでいた兵ちゃんがぽつりと呟く。どうやら私に話し掛けた訳じゃなかったみたいだ。声裏返って返事しちゃったよ。



「あきが好きなのは俺だから、無駄だと思うけど」




 
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