少し昔の話をしましょう。それはまだ兵ちゃんが女の子と見紛う可愛らしき幼少時代。それとは逆に生傷の絶えない野生猿の如き私は生まれた時からお隣さん。当時愛の告白に花が付き物だと知恵を仕入れた私は両手いっぱいの花(注:雑草)を摘んで兵ちゃんの目の前に差し出した。
「へーちゃん、あきとけっこんしよ!」
「!」
「あき、へーちゃんにお腹いっぱいごはん食べさせたげる!あとおっきいお家もあげる!あとね…」
「あきちゃん」
「う?」
「おれがしあわせにするから、おかえりって言ってくれる?」
「うんうんっ絶対する!おかえりするっ」
「…ありがとう。あきちゃんだいすき」
その時は言葉の意味が分からなかったけど、後で知った。兵ちゃんのパパもママも仕事が忙しくて兵ちゃんが寂しかった事。ふわりと頬を染めて微笑んだ兵ちゃんの笑顔があれからいつまでも忘れられない。そして、唯一両想いだったあの頃の美しい記憶が、な……。
「………」
「あっ、兵助お帰り!ご飯出来てるよ!お風呂も沸いてるよ!どっちがいい!?それともまさか私っ」
「帰れ」
頬に手を当ててキャピると、氷点下の眼差しを向けた兵ちゃんはリビングを出て二階に上がってしまった。全く兵ちゃんたらただいまも言わないで…。え?思い出にすがってポジティブしすぎたストーカーみたいだって?ふっ…それ禁句だからけして言わないでくださいます様お願い申し上げます。
「さぁて着替えた兵ちゃんが降りてくるまでに帰るか」
居たらすっごいウンザリした顔寄越すからねあの子…。エプロンを鞄に仕舞うとそそくさと久々知家を出る。押すとこ押して引くときは引く…それが大人の恋と言うものよ。ふふふ。本当はあんな態度取られたまま帰るのすっごい悲しいけどね。出来る事ならご飯食べる兵ちゃんを真正面からガン見してたいけどね。でも帰れって言ったからちゃんといい子して帰るんだ。いいんだ、家に帰ったら兵ちゃんの可愛い所だけ集めたアルバム見て癒されるから…。
「おい、あき」
「!兵ちゃ…兵助!どうしたの?」
予想外の事に思わず心の呼び方で応えそうになってしまった。ちなみに中学に上がって校内で見かけた兵ちゃんを大声で呼び止めて射殺すような視線を受けてから呼び方を変えた。後にも先にもあれが一番恐かった。
家の門から身を乗り出している兵ちゃんに駆け寄って戻るとジッと見つめていた視線をフイッと逸らされた。あらあら。
「…あきが録画予約してたやつ録れてるけど」
「!あっ、あー、そうだった!見たいな!どうしても!今すぐに!!イイかな!!?」
「どれだけ見たいんだよ…好きにしろ」
ふ、と表情が和らいで…あ…兵ちゃんが、笑った…!!じぃんと感動していると私を置いてさっさと家に戻って行く背中を慌てて追いかける。
呆れた様な笑顔でも、兵ちゃんを笑わせられたってそれだけで私の心は無敵になれるんだ!
「ヤダー!痛い痛い痛い!!こわっ!コイツ超コワっ!!うひゃー!兵助見てよ!見た!?」
「うるさくて飯が食えない」
海外アクションドラマとか
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