「もちろん、二人きりで、何をしても誰にも邪魔されない場所に行くに決まってるだろう?」

「は…」

「じゃあな」


そんな事をさらりと言った鉢屋君は私の肩をぐっと抱き寄せると素早く歩き出す。
二人っきりで……って!?なんて破廉恥な!!!!言葉をようやく理解して我に帰り鉢屋君の肩を押す。


「ちょ、ちょっと!今のは…!」

「しー、喋るな。少し走るぞ」

「え?」


言われてすぐに走り出す鉢屋君につられて訳も分からぬまま走り出す。ジ、ジュース紙コップなのに!!後ろから足音が聞こえてきて少し振り返ると兵ちゃんが走って追いかけて来ていた。えっ!?何事!!?て言うか真顔怖いんですけど!
思わず条件反射で走る足を速めると鉢屋君がすぐ上で笑う。校舎の角を曲がってそのまま倒れるように植木の裏に潜むと、すぐに兵ちゃんがやって来た。


「…はぁ、は…。逃げられたか…」


心臓をドキドキさせたまま息を潜めて兵ちゃんが居なくなるのを待つ。あれ、て言うか私どうして逃げて潜んでるんだろう?自分でもよくわからずしていると、暫くして兵ちゃんが完全に居なくなった頃、鉢屋君が肩を震わせて笑い出した。


「っくく…見たか?兵助の慌て方。写メ撮れば良かった」

「て、て言うか何で逃げたの!?」

「大木さんも逃げただろう」

「そ、それはそうだけど…私はつられただけだよ!」

「ふぅん。大木サンって同調しやすいタイプ?」


な…何か感じ悪いな…!目も合わせずに携帯を操作する鉢屋君を睨む。兵ちゃんを馬鹿にする奴はなぁ…昔っから私が追っ払ってたんだからな!数少ない兵ちゃんの友達だと思って下手に出ておれば…!


「大木」

「な、何よ!」

「ジュースもったいない事になってるぞ」

「え?…ああっ!」


しまった!つい鉢屋君睨む勢い余りに紙コップを握りつぶしちゃったよ!ああー…まだ飲んでなかったのに。まぁいいか?兵ちゃん飲んだし…っていや良くないよ。しょうがないのでベタベタする手を舐めてみる。我ながらいやしい…。


「あ、美味しい。余計ショック…」


飲み物無くなっちゃったしもう一度買いに行こうかなぁ。手も洗いたいし。 あの一人っ子め年頃の女子に対して危機感抱いてなさすぎだよ!私だから良かったものの他の女子にしてたら襲われかねないからね!ふと気付くと鉢屋君の距離がさっきより近くなっている。そう言えばこれから一緒にご飯食べるんだったか…。


「あのさ、ちょっと手を洗いに行ってきてもいい?」

「で、大木って兵助に振られたのか?」


質問に質問で返すなんて本当に彼の将来が不安だよ…


あれっ?



「い、いいいい今」

「なんだ?だって失恋して新しい恋探してるんだろう」

「何で知ってるのさ!?尾浜!?尾浜か!??」


飄々としている鉢屋君を思わずぐらぐらと揺さぶる。誰にも好きだって事言ってないのに!!例外で尾浜には勘付かれてたけどあれだけ言うなって釘打っといたのに!むしろ奴に釘を打ち込んでやりたい。よし、OK。行こう。立ち上がり兵ちゃん達がご飯を食べているであろう屋上に向かいだすと、鉢屋君が愉快そうな声で私の名前を呼んだ。


「大木」

「なに!?」

「私について来たら、兵助の事振り向かせる方法を教えてやろう」

「………え?」


兵ちゃんを…振り向かせる…だと?
それは……物理的にって意味で言ってる訳ないよね。この場合。ピタリと立ち止まった私に鉢屋君が喉の奥で笑う。


「それとも、私と本当に付き合いたいか?」


何となく優しい様な気がする視線と声に思わず喉が鳴ってしまった。


 
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