「大木、今日昼飯一緒に食べるか」


机の正面に立った人物を下からゆっくり見上げると鉢屋君が首を傾げていた。鉢屋君、猫背だなぁ。今昼飯一緒に食べるって言ったかな。昼飯…。


「………あ、ああ。私に言ったのですか」

「他に誰が居る」

「ご、ごめん…」

「じゃあ、部室棟の横のベンチで待ってて。私購買で買っていくから」

「わかった…」


「…鉢屋君と大木さんって昨日まで喋って無かったよね?」

「もしかして、昨日何かあったのかな…?」


ざわざわと噂する声が耳に届き笑顔が固まる。ちらりと鉢屋君を見ると不破君達と合流した彼は肩越しにニヤリと笑っていた。あ、ああああいつうううう!!!何かよくわからないけど面白がってる事だけはわかる…私ですら!!
クラスのあちこちからの視線に耐えきれず鞄を持って教室を飛び出す。あ、飲み物そう言えば持ってくるの忘れたんだった…購買だと鉢屋君居るし、自販機でいいか…。教室から離れた所で失速すると自販機を目指して歩く。

昨日は勢いのまま鉢屋君とアドレス交換して帰ってしまったけど、私はこれからどうしたらいいんだろう…。ひとまず兵ちゃんの言う通り鉢屋君と仲良くするべきか…いや、それだと尾浜が言っていた下僕アピールで終わるのか。かと言って今の兵ちゃんにアタックしてもどんどん距離置かれそうだよなぁ……。


「兵ちゃんなら『俺の存在が邪魔になってるなら距離を置いた方がいいだろ』ぐらい言いかねん…」

「俺が何だって?」

「ひぎゃおう」


気が付くと目の前に兵ちゃんが立っていて両手を上げて後ろに飛び退いた。び、びっくりした…!!


「へ、兵助…居るなら居るってもっと早めにお知らせしてください!!」

「気付いたら真横にお前が居たんだよ」

「気付いたら…ってもう自販機だったのか」


兵ちゃんの目の前には紙コップの自販機がある。考え事してる間に着いてたんだ。ちなみに兵ちゃんがいつもこの自販機を使うので私も使っています。


「三郎とはどうだ」

「どうもこうも…昨日の今日で何かあるわけないでしょ!」


兵ちゃんのデリカシーの無さは表彰ものだよ!本気で怒っている訳じゃないけどあえてちょっと拗ねた風に兵ちゃんに背を向けて自販機のボタンを押す。普通女子が拗ねたらごめんぐらい言うよね?まぁうちの兵ちゃんはそこらの男とは違うし?一度たりとも拗ねてる事に気付かれた経験はないけど。継続は力なり…いつ効果があるかわからないから止め時を見失ってたまにやる私も私だ。
紙コップをそぉっと取り出すといつも通り何も言わない兵ちゃんに振り返る。ほうら、やっぱり私に全然興味ないよね本当この子。ジュースに釘付けかよ。


「それ…」

「ん?ジュース?これココアとコーラのミックス…」

「それ買うか悩んでたんだ」

「やっぱり!?気になるよね!気になるよね!」


兵ちゃんはこくりと頷いてじっとジュースを見つめている。素直に頷く兵ちゃん可愛いよ!怪しくて誰も買わない新商品のジュースをつい買ってしまうのはどうしてだろう。ミックスって言われるとつい…。ふと自分の意志とは無関係に腕が上がっていく。


「え?」

「これ、一口くれないか」

「あ、!!」


兵ちゃんは一言添えて、私の腕を掴んだままコップに口を付けた。目の前で伏せられる長い睫毛と少し尖った唇に思考も何もかもがぴたりと止まり今度は私が釘付けになる。すぐに離された唇と上目で私を見た兵ちゃんの視線、どっちを凝視するべきか悩んでいるうちに兵ちゃんは離れた。

こ…これが萌えってやつね…。


「なかなかいけるな」

「あ、うん…」

「あきも飲んでみて」

「うん…えっ!?いや、今は…」

「何でだ。ほら」

「ちょ、ちょっ!!」


飲もうとしない私に何故かムキになった兵ちゃんが再び私の腕を掴む。そんな、兵ちゃんが飲んだコップで飲むとか絶対ニヤけて気持ち悪いじゃん!!!!兵ちゃんの前でだけは飲めない!て言うか顔が近すぎて…っ!!


「あき、どうしたんだ。顔が赤い」

「!そ、それ以上顔近付けないでよ!」


「何やってるんだ?」


ハッと振り返ると鉢屋君がパンを片手に立っていた。兵ちゃんと私を交互に見てにやりと笑う。


「邪魔した?」

「してない!してないよ!」

「あ、そう。じゃあ行こう」


そう言うとお弁当を持っている方の腕を鉢屋君は引いて歩き出す。行くって、さっき言ってた部室棟のベンチだよね。引かれるまま歩き出そうとすると兵ちゃんが不思議そうに首を傾げた。


「三郎。そっちは屋上へ行けないぞ」

「行かないんだよ」

「?じゃあ、どこへ行くんだ」

「あ、あのね、部もご!?」


私が説明しようとすると、突如何かを口に放り込まれてしまった。び、びっくりした…何だ飴か。何をするんだと鉢屋君を見ようとして、



「もちろん、二人きりで、何をしても誰にも邪魔されない場所に行くに決まってるだろう?」


 

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