七松課長と一緒に居るせいか、階段を使う事が普通になっていた。だから経理から戻る道も階段を使って、ちょっとゆっくり考えながら戻ろうかといつも使う階段とは別の場所を使ったのでオフィスフロアに着いて廊下を歩いていた。それが悪かったのか?


「奈津、あのな」

「うん?」

「ばか」


「え…」


聞こえてきた会話に思わず立ち止まる。その…質問は…私にしたのと同じものじゃないかな。そう言えばあの時の七松課長は何か微妙な反応していたような…。立ち聞きなんてよくない事だけど今回はしょうがない。あの質問の意味が今解るかもしれないし。
そっと目を出して覗き見るときょとん、とした遠野さんが柔らかく笑った。


「もう、酷いなぁ。小平太君だって運動ばかでしょ」


そう言って七松課長の胸にポス、とパンチした。さりげないボディタッチ。すごいモテテクニックっぽい。七松課長はうんうん満足そうに頷いていた。どうやら今のが正解だったみたいだ。くそう、次質問されたら同じ事してやる…。だけど笑顔で七松課長が言った言葉に一瞬思考がストップした。

 
「やっぱり、このぐらいの方がいいな」

「…?あ、そう言えば、善法寺君がね、同期飲みしようって。今日空いてるかな?」

「わかった!行く!」

「うん。じゃあ、またね」


エレベーターが到着した音が聞こえて二人の会話が途切れた。壁に背中を着けたまま七松課長の足音が遠くなるのを聞いていた。さっきの言葉って、つまり、私より遠野さんがいいって…。


「おっ、大木ー。こんなとこでどうし…」

「……ちょっと空気イスで筋トレしてました」

「よし。嘘がへったくそだな大木よ。ジュース買ってやるから自販機行こうぜ」


私の顔を見て言葉を無くす松野さんに笑わせるつもりで冗談を言ったけど微塵も笑わなかった。動かない私を松野さんが腕を引っ張って連行する。タイミング良かった、松野さんが通らなきゃ私、泣いてたかもしれない。エレベーターホールの前に出ると七松課長がオフィスに入っていく所だった。一瞬目が合って七松課長が立ち止まる。そこで気付いた。手を掴まれたままだった…課長の位置からは手を繋いでるように見られないかな。

だけど七松課長はすぐにそのまま行ってしまった。


「何だぁ、ついに喧嘩でもしたのかよ?」


だから、喧嘩なんて出来るような関係じゃないんだってば。


 
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