「はぁ…」
インスタントコーヒーの蓋を開けながら深く溜め息をつく。滝先輩の言葉が頭の中をぐるぐる回っていて仕事に全然集中できない。だから少し休憩しようとコーヒーを淹れに来たんだけど。
『七松課長は遠野さんに片想いされていた。だが、彼女が移動で此処を離れてしまったから…』
滝先輩はそれ以上言葉を続けなかったけど、言いたい事はわかる。再会した事で七松課長がまた遠野さんに惹かれたっておかしくないんだ…。もしそうなったら私はどうするべきなんだろう。
「…あああっ!クヨクヨ考えるのやめ!」
今何考えたって悪い方向にしか考えられないし悩むのは一旦置いておこう。大体滝先輩が勝手にそう思ってただけで本当に片想いしてたのかわかんないし!滝先輩本当そういう所あるからね仮定大好きっ子だからね。
「お。おつかれー。大木も休憩だったんだな」
「あ…松野さん。お疲れ様です」
声を掛けられてハッとする。給湯室に入ってきたのは隣の営業部の松野さんだった。ちなみに一年先輩。いつもこの松野さんと言う人は会社にあんまり居ないんだけど、最近何故だかやたら出会ってしまうのは何でだろう。スペースを少し詰めると片手を上げてマグを置いた。
「何飲むんです?コーヒーなら私まとめて作っちゃいますよ」
「お、マジで?よろしくー」
「はーい」
元々七松課長にも持っていこうと思って、そうしたら滝先輩にも…じゃあ時友君と皆本にもついでに淹れるかな、次屋にはもちろん淹れないで。と考えていたので私の手元には無数の紙コップが並んでいた。
ニッと笑って頭を撫でられたので作業を再開する。松野さんの笑顔はちょっとだけ七松課長に似ていて好きだなぁ…もちろん課長の方が断然好きなんだけど。そう言えば課長、今日お弁当のご飯粒顔に付けてて可愛かったなぁ。何あの可愛さ。殺す気かとおもった。
「ブッ!!何、壁見ながら笑ってんだよ…!」
「え…あっ!あはは、は…」
「はー、やっぱお前おもれー。ちょうにやけてたぞ」
「忘れてください!」
松野さんの笑い声にハッとして我に帰る。そう言えば今一人じゃないんだったー!いつも給湯室に来ると七松課長の可愛かったシーンプレイバックしてるからついやってしまった。は、恥ず!!顔が赤くなるのを自覚しながら必死に訴えると松野さんは手に持っていた何かの冊子で口元を隠して私を見た。いや、笑っているのは隠せてないよ!肩まだ震えてるの丸見えだからね…!
「いーよなぁ、恋する乙女は」
「おとっ…そ、そういうんじゃ…」
「へぇー、じゃあ昼間っから大木は下ネタでも考えていたんだな」
「すいません。私は恋する乙女でした!」
即謝罪するとまたけらけらと笑われる。完全におもちゃにされている感…あるよね。まぁ話しやすいし先輩としても頼りになるし嫌いではないんだけど。
「なぁなぁ、七松課長と喧嘩とか無いの?」
「な、無いですよ!」
「ふぅん。でも腹立つ事とかあんだろ」
「いや…ないですよ」
「うそだろ」
「可愛すぎて腹立つことなら…」
「それは違う」
以前、親睦会で公衆の面前でキスされてしまってからはほぼ公認の仲だった。だから松野さんの口から七松課長の名前が出てきても驚くとこはない。恋人と言う関係を人から言われて心臓がばくばくするけどね…!
「言いたい事我慢してると長続きしないぞ」
「し、してませんって。もう…」
「どうだかなぁ」
「松野さんのからかってくる所が嫌いです」
「き、嫌いとか言うなよ…ショック」
「はいはい嘘ですよ…あ、課長」
松野さんが白々しく顔を覆って嘘泣きするので呆れてあやしながら給湯室から出ると七松課長が居た。隣を見ると松野さんがにやにやとしていて何となく赤くなる。だからそう言う所が嫌いですって言ってるのに…!
「大木コーヒーありがとな。まぁまた何かあればいつでも聞くぜ」
「ま、またって…だから何にもないですってば!!」
いらぬ事を言って先に行ってしまった松野さんの背中に叫ぶ。またってまるで私が何かの相談をしていたみたいじゃないか!よりによって七松課長の前でぇ…!!課長を見ると何も言わずにじっと見てくるので何とか笑顔を作る。
「か、課長。コーヒー淹れましたよ?」
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