「じゃあ、元々は同じ企画課の方だったんですか」
ああ、と頷く滝先輩に何となく納得した。同じ部署の同期だから七松課長だけ名前呼びだったんだ。気にしないでいようと思いつつやっぱり気になってしまうから聞いてしまってよかった。
「遠野先輩は元々商品開発の仕事がしたくて入社されたんだが配属にならなかったらしい。ちょうど大木達の入社の人事で希望を出されてな、今までは工場を転々としていたみたいだぞ」
「そうなんですね。じゃあ特別な関係があったという訳ではないんですか?」
「…ああ、そう思うが」
「でも、じゃああれは?」
次屋の声に指さされた方を見る。トレイに試作品らしいカップを乗せた遠野さんがパタパタと七松課長の元へ駆け寄って行ってそのまま
「小平太く、んわあ!」
「おっと、大丈夫か?」
「あ、う、うん…ごめんね、ごめんね!またやっちゃった…」
「奈津は本当そそっかしいなぁー」
「う、あの、これね、新商品の試作なんだけど企画営業の皆にも食べてもらおうと思って」
「わかった!」
七松課長の腕の中で赤面する遠野さんは焦ってはいるものの動く気配はない。七松課長もその状態のまま会話をするものだから他の部署の人達からも視線を集めていた。何て言うか…。引きつる顔のまま次屋と一緒に滝先輩を見れば冷や汗を流し苦笑いをしている。遠野さんが本社に戻られてからと言うもの、毎日何かしらの形でラブコメが展開されている。
あんまりね、嫌いでもない人の事悪く言ったりするの好きではないんですが…こっちの身にもなってくださいよ!!
「本ッ…当に、何もなかったんですね?」
「ほ、本当だと言っているだろう」
「はい、嘘!あの距離感でただの同期な訳ないでしょう!」
「先輩。嘘下手すぎ。何か隠してるって顔に書いてありますよ」
「ぐっぐぬ………わかった。教える」
珍しく次屋が味方になって一緒に滝先輩をじとりと見つめていると言葉を詰まらせた滝先輩が額を抑えた。上司に振り回されるだけで大変なのに、部下にまで…とかぶつぶつ言っているけど早くしてください。と思っていると次屋が直接言っていた。
「いいか、別に隠そうとしたつもりはなくてだな、私の個人的見解であるからいくら優秀な私と言えど万に一つ間違いがあると誤解を招くと思ってだな」
「わかりました。お気遣いありがとうございます早くしてください」
「……七松課長は」
滝先輩が一度二人を見る。笑い合う姿は正にお似合い。私がどんなに背伸びをしたってたった数年でも歳の差は埋められない。部下と同期じゃ比べられない絆があるのもわかりますよ。だけど、そんな風に笑ったら、女の人は勘違いするんだって、どうして七松課長は気付かないのかな。
「遠野先輩に片想いされていた」
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