「おーい、大木ー」


飲み会から帰ってきた七松課長の声が浴室から聞こえる。遅くなる時は大体私が先に入るのでもしかして風呂場で何かやらかしてしまったかと少し不安になる。いや、大丈夫だと思うけど…三度見くらいしてるからね!


「何ですか?」

「ちょっとこっち!」

「え…!?」


声がくぐもっていたから脱衣所ではないだろうと、それでもノックして数秒待ってソロソロと開いてから今度は浴室の扉の前に立った。磨り硝子越しに声を掛けるとそんな返事が返ってきて…こっちって、開けろって事ですかね!?


「あ、あ、開けますよ…」

「んー」

「失礼します…ど、したんですか?」


カラカラ…と薄目で扉をスライドさせると浴槽から出した腕に頭を預ける課長がこっちを見ていた。体がそんなに見えない事にホッとする。まだ七松課長の裸は、私には目の毒だ。でも、くて、と首を傾げた課長に見上げられて鼻血出そうです。ドキマギしていると課長はとんでもない事を言った。


「風呂、一緒に入ろう!」

「えっ!!い……………いや、私もう入りましたよ?」

「もっかい入れ!」

「え、でも、あの、」


一瞬頭が真っ白になってカアアっと顔が熱くなる。一緒にお風呂って、そんな熟練カップルの様な事…!?!!?でもハッと我に返る。私、もうお風呂入ったんだった!気を取り直してそれを伝えるも課長はそんなの関係ないらしい。戸惑っているとニカッとお酒の入ったにこやかな笑顔を向けられる。


「一緒に入るの好きなんだー。入れよー」

「いや、でも…」

「…駄目か?」

「!!…は、入るの、見ないでくれるなら…」

「よし、わかった!」


一緒に入るのって一体誰とだ。もしかして今までの彼女の事言ってんですか。冷静に突っ込んでしまいたかったけど残念そうに眉を下げられるともう何も言えなかった。き、きゅううう…!きゅううてなる!胸が痛い!キュン死にする!
一度扉を閉めると腹を括って一思いに服を脱いだ。相手は酔っぱらいだし、頑張れ私…!最後の抵抗にタオルを巻いて扉の前に立つ。ドキドキ心臓が痛いくらい脈を打つ。


「は、入ります。絶対後ろ向いてて下さい」

「わかった!」

「とか言って開けたらこっち見てるとかナシですからね!」

「……わかった!」


何だ今の間は!課長見る気だったんだろ!暫く黙って扉の前に立っていると早くしろと声を掛けられたので一度大きく深呼吸をしてカラカラと静かに扉を開いた。見えたのは背中を向けた課長の後ろ姿。


「お、お邪魔します…」

「おー」


どうしようか一度迷って、バスタオルは畳んで浴槽の淵に置いた。出るときまた巻いて出よう。それから一度掛け湯をして課長の背後から足を入れる。ポチャ、と音が鳴るとピクリと課長の背中が動いた。目の前に広がる大きな背中。その筋肉のついた背筋をまじまじと見つめる。課長、はだか……やっぱり恥ずかしい…。逆上せてもないのにくらくらしそうで背中を向けると膝を抱えて丸まった。緊張のせいで心臓の音がうるさい。課長もさっきから何も言わないし、


「なんかちがう」


ぽつりと聞こえたと思ったら湯船が揺れて、突然両腕の下を通って肩を掴まれる。そのままグイッと引き寄せられてあっという間に私の背中は七松課長の体に密着していた。


「か、かちょ………」

「こう言う事」


見上げると満足そうに笑う課長が見えて、腕をそのままお腹に回されて緩く抱き締められる。今度は私がピクリと反応すると見下ろした課長と目が合って、


「あき、柔らかいな」


耳元で小さな声で囁かれて、そこから何を話したのか覚えてない。


 
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