「あっ、どうぞ」

「あっ、ごめんね!いいの。あきちゃんと話がしたかったから」


乗り込むのに扉を手で押さえて言うと、書類を抱えた遠野さんが手を顔の前でブンブンと振る。今じゃないとダメですか…?とは言えないので曖昧に笑って歩き出す。取りあえず私自分のデスクに行きたいんです。課長が何か言ってしまわない内に出勤をお知らせしないと…!


「あきちゃん、ごめんなさいっ!」

「…えっ!?あ、あの、ちょっと遠野さん!?頭上げて下さい!」


オフィスの入口に入ってすぐ、突然の謝罪に振り向くと遠野さんが深々と頭を下げていた。慌てて何とか顔を上げてもらったけど、周りの社員の目が痛い。いや…私何もしてませんけどね!?


「一体どうしたんですか?私、何か謝らせるような事をしましたかね…」

「ううん、違うの!私小平太君とあきちゃんが付き合っているの、知らなくて…昨日皆に言われて反省したの。きっと嫌だったよね?だから、ごめんなさい」

「遠野さん…」


今度は真っ直ぐに見つめられて謝られる。そんな風に考えてくれたんだ…。私が同じ立場でも、多分こんな風に謝ったり出来ない。きっとショックを受けて暫く落ち込んで、自分の事ばかり考えて相手を思いやったり出来ないと思う。自分の幼さが見えた気がしてぎゅっと手を握ると遠野さんが柔らかく笑った。つられて見るとその先には七松課長が居る。


「実はね、昔小平太君にふられてるの」

「えっ」

「あきちゃん達が入るちょっと前かな?小平太君って昔から私の事面倒見てくれてね、向こうも私の事好きなんじゃないかなって勝手に思ってたの。でも告白したらお前は弟妹みたいだからって。それで自棄になって移動願い出しちゃった」


内緒だよ。って可愛く首を傾げる遠野さんに驚いて言葉が出ない。じ、じゃあ…好きだったのは課長じゃなくて遠野さんの方だったって事で、課長の遠野さんへのスキンシップは兄弟的なものだったって事か。それに移動願って、滝先輩の話じゃ志望だったからだって言ってたのに…。


「…ええっ!?」

「あはは、いい反応」

「す、すいません…」

「いいのいいの。全部本当の事だし。だから久しぶりに会って変わらない小平太君見たら、今なら私の事少しは弟妹以外として見てくれるかなって…でもあきちゃんがいるなら話は別だよ!私、あきちゃんの事好きだもの」

「……わ、私も…遠野さんみたいな大人の女性になりたいなって、思います」

「…そっか、ありがとう。嬉しいなぁ」


微笑まれて頬が熱くなる。何でだろう、遠野さんに好きって言って貰えて凄く嬉しい…。照れるのを抑え込んで伝えると、きょとんとした遠野さんが嬉しそうに笑ってくれた。七松課長が自分の兄弟みたいに思う人の事、私が好きにならない訳がない。暫く二人で笑い合っているとハッとした様に遠野さんが慌て出す。


「大変!もうこんな時間だ!長々と引き止めてごめんね!」

「あ、いえっ」


そう言われて慌てて時計を確認する。もう仕事始まってる!バッと企画営業課を振り返るのと七松課長のよく通る声がハッキリと聞こえてくるのは同時だった。



「大木か。腰が立たないみたいで休ませたぞ!」



ヤ…ヤメテーーーーー!!!!!


 
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