「……ウソ。やっぱりよくない」
「え…?」
「大木、松野と一緒に居たか?」
「松野さん…?」
眉を寄せているけど、怒っている訳でもなさそうな表情の七松課長の言葉にぽかんとする。え…?なんで今松野さんの名前が出たんだろう。首を傾げると課長も真似をして首を傾げる。はい、だから可愛い。
「あの…松野さんがどうかしたんですか?」
「お前ら、仲良いだろう」
「ええー…いやぁ…?」
「大木は私の前ではカチコチで表情固いし」
「それは、その」
「嫌いって言ったし…」
続いた課長の言葉にどばっと冷や汗が流れた。や、やっぱり聞こえてたんだ!心なしか課長がシュンとしている様に見える。
「ああ、あの、それはっ!」
「松野の事好きになったのかと思った」
その言葉に、頭より先に体が動いていた。勢いよく課長の首に抱き着いたけど、やっぱり課長はびくともしなかった。
どうしよう。どうしようどうしよう。課長、妬きもちしてくれてるんだよね?嬉しい。けど、それ以上に愛しさがこみ上げる。腕に力を込めて全力で抱き着くと課長の腕にも力が入った。
「松野さんは滝先輩と飲みに行かれたので一緒に居ませんでしたよ。て言うか私会社で寝てたんです、だからこんな時間になったって言うか…」
「そうか」
「課長の前でカチコチなのは、緊張してるから…あ、いや、遠慮の方じゃなくて胸がドキドキする方って言うか!」
「そうか」
「私…わたし、七松課長だけです。好きなのは、課長だけ、です」
言い終わらない内に身体を離されて顔を覗き込まれる。相変わらず真っ直ぐな瞳に顔が熱くなったけど最後まで言い切った。他の人なんて全然見てないのにって言ってしまいたいけど、それじゃあ言葉が違う気がしてもう一度告白した。
ジッと見つめる課長の表情が瞬きをして変わる。課長は、いつもみたいに笑った。
「…そうか!」
「はい!」
やっぱり、いつもの課長が好き。
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