「大木、ここ」
リビングに戻ってソファに座った七松課長に隣へ来いと手招きされる。本当は駆け足で行きたい心積もりではあるんだけど…。そわそわして座らない私に課長が首を傾げる。
「あ、あの、課長」
「どうした?」
「いや…いいんでしょうか?その、遠野さん…」
結局誰も戻って来る事無く帰ってしまったけど、言いっ放された遠野さんは大丈夫だろうか。課長が遠野さんにああ言ってくれたのは嬉しいはずなのに、もし言われたのが私だったらって考えるとあんまり素直に喜べないと言うか…。複雑な心境で居ると課長に腕を掴まれて引き寄せられて課長の膝の上に座ってしまった。
「ぅわっ、す、すいませ」
「私は、ハッキリしないのが好きじゃない。奈津に言わない方が良かったのか?」
「い、いえっ!」
「じゃー、あれでいいだろう?」
腰に腕を回されて、膝の上から下ろしてくれる様子はない。至近距離で顔を覗き込まれて思わず目を反らす。今顔どんなだっけ、化粧よれてないかな…外とは違って明るいから、別の緊張も相まってドギマギしていると課長がぐりぐりと肩に頭を押し付けてくる。課長にすれば遠野さんが好きだって知らないんだからそんなもんなのかな。かと言って他人の私が伝えるのもよくないし…。
「そんな事より」
「そ、そんな事って…」
「お前こそ、どうなんだ」
「え?」
「今まで電話に出ないで何してたんだ」
「あ…」
そう言えば課長の着信気付かなかったんだった。会社からマナーモードにしたまんまだったからなぁ。顔を上げると少しムスッとした表情をしていて慌てる。
「飲みに行ってたのか」
「ざ、残業ですよ!課長がしろって言ったじゃないですか!」
「こんな遅くまでしろとは言ってないぞ!」
「早く帰れとも言ってませんからね!」
「………」
「……っ」
「…まぁいい」
じとりとした視線を向けられて真っ向からキッと見つめ返していれば七松課長が折れた。か、か…勝ったーー!!!課長に初めて勝った気がする!と言うより、こんな真っ向から挑んだのが初めてかも…
「…ウソ。やっぱりよくない」
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